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医学部合格に必要な勉強時間|量だけでは決まらない3つの根拠

2026年09月16日 更新

こんにちは、福岡の医学部予備校で総務/広報を担当している後藤です。

本日のブログは、毎年いちばん多く聞かれるのに、これまで一度もきちんと書けていなかった話です。
「医学部に受かるには、何時間勉強すればいいですか」。第2回の全統記述模試が返ってくるこの時期、保護者の方からも受験生からも、必ずこの質問が来ます。

僕はこれまで「1日10時間」「3年で5,000時間」といった数字を、そのまま口にしていました。ところが、学習の量と成績の関係を実際に調べた研究をいくつも読み直してみて、手が止まりました。その「◯時間」という基準が、どの研究にも出てこないのです。

検索窓に「医学部 勉強時間」「医者になるには 勉強量」と打ち込む人は毎日います。その問いに、数字だけ返して終わりにするのはもうやめようと思いました。この記事では、大学生を対象にした一次研究3本を読んで、分かっていることと分かっていないことを分けて書きます。

まず、こう思っていませんか。

− 医学部なら1日10時間はやらないと無理なんでしょ?

− 結局、勉強時間がいちばん長い人が受かるんでしょ?

− 時間を増やしても伸びないのは、やり方が悪いだけでしょ?

一つずつ、研究で確かめていきます。

 

結論|「1日何時間で受かる」と答えた研究は1本もありません

先に結論を書きます。学習の量と成績の関係を調べた研究のなかに、「1日◯時間」「合計◯時間」という合格の基準を出したものはありませんでした。3本を読んで分かったのは、その代わりになる次の3つです。

  1. 勉強量は、勉強の質と前の成績を計算に入れたときだけ、大学の成績を予測しました(Plant ほか 2005年)。量を単独で見ても当たりません
  2. 練習量で説明できる成績のばらつきは、分野でまるで違います。ゲームは26%、教育分野は4%でした(Macnamara ほか 2014年)
  3. 学習の習慣・技能・動機は、入試の標準テストに匹敵する予測力を持っていました(Credé & Kuncel 2008年/344研究・のべ72,431人)

つまり、伸ばすべきは「何時間やるか」ではなく「何を数えているか」のほうです。時間は、増やしても減らしても、それ自体では成績の説明になりませんでした。

 

① 勉強量だけを見ても、大学の成績は当たらなかった

1本目は、大学生の成績を「前提となる知識・技能」「勉強の質(どんな環境でやったか)」「勉強の量」の3つで説明しようとした研究です(Plant, Ericsson, Hill & Asberg, 2005年)。

結果はこうでした。勉強量が累積GPA(大学の成績)の有意な予測因子になったのは、勉強の質と過去の成績を計算に入れたときだけで、量を単独で取り出しても成績は予測できませんでした。

勉強量だけを見ると累積GPAを予測できないが、勉強の質と過去の成績を計算に入れると有意な予測因子になることを示した対比図
出典:Plant EA, Ericsson KA, Hill L, Asberg K. Contemporary Educational Psychology. 2005;30(1):96-116 をもとに太宰府アカデミー作成
見ているもの 勉強量だけを見る 質と前の成績を入れる
勉強量の扱い 単独で見る 質と前の成績を入れる
累積GPAとの関係 予測できない 有意な予測因子になる
実務での意味 時間は目標にならない 時間は条件つきで効く

この図でいちばん大事なのは、左と右で同じ勉強量を見ているのに結論が逆になるところです。「時間は意味がない」という話ではありません。逆に「時間さえ積めばいい」という話でもない。時間は、他の条件とセットにして初めて効いてくる変数のひとつだった、ということです。

受験に置き換えると、同じ「今日6時間」でも、解説を写していた6時間と、手を止めて思い出そうとした6時間は、同じ1行として記録されます。記録の側が、その差を見ていないわけです。

 

② 練習量で説明できる割合は、分野でまるで違う

2本目は、意図的な練習(deliberate practice)がどれだけ成績を説明できるかを、分野をまたいで集計したメタ分析です(Macnamara, Hambrick & Oswald, 2014年)。

意図的練習で説明できた成績のばらつきの割合。ゲーム26%、音楽21%、スポーツ18%、教育4%、専門職1%未満
出典:Macnamara BN, Hambrick DZ, Oswald FL. Psychological Science. 2014;25(8):1608-1618 をもとに太宰府アカデミー作成
分野 練習量で説明できた
成績のばらつき
ゲーム 26%
音楽 21%
スポーツ 18%
教育 4%
専門職 1%未満

読み方には注意が要ります。教育分野の4%だけを切り出すと、必ず誤読されます。同じ表にゲーム26%が並んでいて、この研究が示したのは「練習量は重要だが、これまで主張されてきたほどではない」ことと、分野によって練習量の効き方がまるで違うことの2つだからです。

もう1つ、分散の説明率は、因果の大きさとは別物です。参加者全員が同じくらい練習している集団では、練習量の差が小さいので説明率は小さく出ます。「4%しかないから練習は無駄」とは読めません。

 

③ では何が効くのか|344研究・のべ72,431人が示した「第3の柱」

3本目が、いちばん実務に近い研究です。学習の習慣・技能・態度が大学の成績とどう結びつくかを、344研究・のべ72,431人ぶん集計したメタ分析です(Credé & Kuncel, 2008年)。題名にある「第3の柱」は、学力テストと過去の成績に続く3本目という意味です。

分かったことは3つあります。10の構成概念のうち「学習動機」と「学習スキル」が、大学の成績との関係がもっとも強かったこと。それらの指標が標準化テストや過去の成績に匹敵する予測力を持ち、上乗せの説明力があったこと。そして学習スキルの指標は、高校の成績とも入試の標準テストとも概ね独立していたことです。

学習の一次研究が答えていること・答えていないことの一覧。1日何時間で受かるという基準は示されておらず、学習の習慣・技能・動機は標準テストに匹敵する予測力を持つ
出典:Plant ら(2005)/Macnamara ら(2014)/Credé & Kuncel(2008)の3本をもとに太宰府アカデミー作成
研究が答えていること・いないこと 根拠
× 「1日◯時間で受かる」という基準 3本のどれにも、その数字は出てこない
× 勉強量だけを見て成績を当てる 質と前の成績を計算に入れたときだけ有意になった(2005年)
学習の習慣・技能・動機で成績を説明する 344研究・のべ72,431人。標準テストに匹敵する予測力
前の成績では説明できない部分を説明する 学習スキルの指標は高校の成績とも入試の標準テストとも概ね独立

3つ目が効きます。学習スキルが過去の成績と独立しているということは、「もともと出来る子だから」では説明できない部分があるということです。ここは、いまE判定やD判定を持っている受験生にとって、意味のある話だと思います。

 

この3本から、言ってはいけないこと

研究を根拠にするなら、言えないことも同じだけはっきりさせておきます。

  • 「勉強時間は意味がない」とは言えません。①は条件つきで有意な予測因子になったと述べています
  • 「教育は4%だから練習は無駄」とは言えません。分散の説明率と因果の大きさは別物です
  • 「◯◯をすればGPAが上がる」とも言えません。③は相関研究のメタ分析で、介入の効果を測った実験ではありません
  • 3本とも大学生が対象です。高校生・受験生を対象に同じことを確かめた研究は、今回見つけられませんでした。ここは今後の宿題にします

それでも「1日◯時間が合格ライン」という数字が、どの研究にも無いことだけは確かです。あの数字は、誰かが経験から言ったものが独り歩きしているだけでした。

 

太宰府アカデミーの視点|時間の代わりに何を数えるか

ここからは、データを受験にどう使うかの話です。

勉強時間の記録には、ひとつ構造的な弱点があります。「やったこと」は残るのに、「できるようになったこと」は残らないことです。①の研究が量と質を分けたのは、まさにこの点でした。

そこで、記録する対象を入れ替えてみてください。時間を消すのではなく、時間の横にもう1列足すイメージです。検討するうえで、次の3つを挙げます。

  1. 解けなかった問題のうち、1週間後に自力で解けたものが何問あるか。その日のうちに解き直して解けても、翌週に解けるとは限りません
  2. 同じ失点が2回続いていないか。模試の判定より、同じ誤りの繰り返しのほうが早く変化に気づけます
  3. 手を止めて思い出そうとした回数。解説を読んでいる時間と、思い出そうとしている時間は、記録上どちらも「1時間」です

もちろん、これで成績が上がると保証できるものではありません。③が示したのは相関であって、介入の効果ではないからです。ただ、時間を目標に置くと、時間を増やす以外の打ち手が見えなくなります。そこだけは避けたいところです。

なお、いつ・どこで・何をやるかを先に決めておくことの効果については、秋に勉強が続かないのはなぜか|今日から変える3つのことで別途まとめています。「5,000時間」という数字がどこから来たのかを分解した記事は医学部の勉強時間5,000時間の根拠|授業は1,867時間に、模試で何点取れば届くのかは模試で何点取れば医学部に受かるのかにあります。

 

医学部の勉強時間についてよくある質問

Q. 結局、1日何時間やればいいのですか

研究からは答えが出せません。344研究を集めたメタ分析でも、時間の基準値は示されていません。現実的には、学校や予備校の授業がある日に確保できる自習時間は上限が決まっているので、「増やせる時間」より「その時間で何問思い出せたか」を先に見るほうが動かしやすいと考えています。

Q. 勉強時間を記録するのは無駄ですか

無駄ではありません。①の研究でも、量は質とセットにすると有意な予測因子になりました。やめるのではなく、時間の横に「できるようになったこと」の列を足すのが、この3本から取り出せる実務的な結論です。

Q. 医学部は他の学部より多く時間が要るのではないですか

入試で課される科目数と範囲が広いことは事実です。ただし「医学部だから何時間」という基準を示した研究は見当たりませんでした。志望校が久留米大学でも福岡大学でも、あるいは国公立大学でも、必要時間を数字で出した一次研究は今回見つけられていません。

 

まとめ

  • 「医学部合格に必要な勉強時間」を数字で示した研究は、今回読んだ3本のどれにもありませんでした
  • 勉強量が大学の成績を予測したのは、勉強の質と前の成績を計算に入れたときだけでした(Plant ほか 2005年)
  • 練習量で説明できた成績のばらつきは、ゲーム26%に対して教育分野は4%。分野で効き方がまるで違います(Macnamara ほか 2014年)
  • 代わりに、学習の習慣・技能・動機は入試の標準テストに匹敵する予測力を持っていました(344研究・のべ72,431人)。しかも高校の成績とは概ね独立していました
  • 今日やることは1つだけ。今週やった問題のうち、1週間後に自力で解けたものが何問あるかを数えてください。志望校が久留米大学でも福岡大学でも、川崎医科大学でも、この数え方は変わりません

「5,000時間」という数字を口にしていた側の人間として、その根拠を確かめずに使っていたことは、正直に書いておきます。時間の話をやめるつもりはありません。ただ、時間だけを渡して「あとは頑張れ」と言うのは、この3本を読んだあとではもうできないと思いました。

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本日の記事は以上です。
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◆筆者プロフィール

後藤 登(Goto Noboru)
仕事:総務・広報・完全個別指導コース担当
自己PR:高校・大学ボクシング部。釣りや登山が好き。新卒で当校に勤めて13年目。医学部受験の情報を調べて、ブログやInstagram、Twitterを更新しています。4年前から完全個別指導コースのコース担当。

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