こんにちは、福岡の医学部予備校で総務/広報を担当している後藤です。
本日のブログは、保護者の方から最近よく聞かれる質問に答えます。「これから医者は余るんじゃないですか」。
きっかけは今年の春のニュースです。2026年4月、財務省が国の審議会で「医師数が過剰となることは既に確定的」として、医学部の定員を大胆に減らすよう求めました。これから6年かけて医学部に通い、医師になるころに仕事がなかったら――と不安になるのは、自然なことだと思います。そこで、厚生労働省と財務省の資料を1枚ずつ読んで、何が決まっていて、何がまだ決まっていないのかを整理しました。
結論から言うと、国の推計では医師の数は2029年ごろに「足りる」(需要と供給が釣り合う)ところまで来て、その後は供給のほうが多くなる見込みです。国は2027年度から医学部の定員を減らす方向で動いています。ただし、医師が足りない県は今もはっきり残っていて、医師がいちばん多い東京といちばん少ない青森では1.8倍の差があります。「医者が余る」のではなく、「どこで、何科で働くか」が問われる時代になる、というのが数字から見える姿です。
− 医者は、本当に余るようになるの?
− 医学部の定員は、いつから、どれくらい減るの?
− これから医学部を目指すのは損なの?
ひとつずつ、国の資料の数字で見ていきます。
この記事の目次
医者は余るのか|国の推計では2029年ごろに「足りる」
まず、国の推計です。厚生労働省は2020年に、医師の数(供給)と、世の中が必要とする医師の数(需要)の見通しを出しています。この推計がいまも国の議論の土台で、2026年4月の財務省の資料もこれを使っています。

| 推計の前提 | 労働時間 | 時間外に直すと | 医師の需要と供給が釣り合う時期 |
|---|---|---|---|
| 需要ケース2 | 週60時間に制限 | 年960時間 | 2029年ごろ・約36万人 |
| 需要ケース3 | 週78.75時間に制限 | 年1,860時間 | 2032年ごろ・約36.6万人 |
医師がどれだけ働くかによって、必要な医師の数は変わります。そこで推計は、労働時間の前提をいくつか置いています。医師の労働時間を週60時間程度に抑える前提(需要ケース2)では、2029年ごろに約36万人で需要と供給が釣り合います。厚生労働省はこれを「2023年に医学部に入学した人が医師になるころ」と説明しています。週60時間は、2024年4月に始まった医師の働き方改革の上限(時間外労働は原則年960時間)とほぼ同じ前提です。
釣り合ったあとは、人口が減るのに合わせて需要が減り、供給のほうが多くなっていく見込みです。ただし、この推計は医学部の定員を2020年度の9,330人のまま続けた場合のもので、6年前の推計でもあります。数字は「このまま進めばこうなる」という目安として読んでください。
医学部の定員は2027年度から減る方向|国と財務省の動き
この推計を受けて、国は医学部の定員を減らす方向に舵を切っています。まず、定員のこれまでを見てください。

| 年度 | 医学部の定員 | できごと |
|---|---|---|
| 1981〜1984年度 | 8,280人 | 過去の最大。1982年に「医師過剰を招かないように」と閣議決定 |
| 2003〜2007年度 | 7,625人 | 抑えられていた時期 |
| 2008年度 | 7,793人 | 医師不足への対策で増員が始まる |
| 2017年度 | 9,420人 | 過去最多(国際医療福祉大学の医学部ができた年) |
| 2025年度 | 9,393人 | 令和9年度の削減の基準になる数 |
| 2026年度 | 9,376人 | いまの定員 |
医学部の定員は、国の判断で増えたり減ったりしてきました。1982年に「医師の過剰を招かないように」と閣議決定して絞り、2008年度からは医師不足への対策で増やし、2017年度の9,420人が過去最多です。2026年度は9,376人です。
そしていま、再び減らす方向です。2025年6月の閣議決定(骨太の方針)に「2027年度以降の医学部定員の適正化を進める」と書かれ、厚生労働省の検討会は2026年4月の資料で、2027年度の医学部の定員を、2025年度の9,393人に対して全体として減らす方向を示しました。具体的には、医師が多い県の「臨時定員」の地域枠を、2024年度の数の2割ぶん減らします(条件によって1〜2割ぶん戻す仕組みがあります)。2028年度は、医師が多い県だけでなく全国で臨時定員を減らす方向で検討が進んでいます。
財務省はさらに踏み込み、2026年4月23日の財政制度等審議会で「医学部6年制を踏まえると、医師数が過剰となることは既に確定的」として、定員を計画的に、大胆に減らすよう求めました。一方で、医師が少ない県の知事たちは「臨時定員は当面延長し、減員はしない」よう提言していて、検討会の委員からも「全国で見れば釣り合っても、都道府県単位で見ると釣り合いには遠い」という意見が出ています。減らす方向は決まっていますが、どこで・どれだけ減らすかは、まだ動いている途中です。
医師は増えている|ただし増えたのは60歳以上
次に、医師の数そのものです。2024年末の医師は347,772人で、2年前より4,497人増えました(厚生労働省 医師・歯科医師・薬剤師統計)。病院や診療所で働く医師に限っても、2012年の288,850人から2024年の331,092人へ、12年で42,242人(14.6%)増えています。

| 年齢 | 2024年の医師数 | 2022年からの増減 |
|---|---|---|
| 29歳以下 | 31,639人 | −347人 |
| 30〜39歳 | 67,729人 | +778人 |
| 40〜49歳 | 65,264人 | −1,120人 |
| 50〜59歳 | 65,939人 | −436人 |
| 60〜69歳 | 60,746人 | +1,485人 |
| 70歳以上 | 39,775人 | +3,288人 |
| 合計 | 331,092人 | +3,648人 |
ところが、年齢別に分けると景色が変わります。2年間で増えたのは60歳以上で+4,773人。59歳以下は、合わせて1,125人減っていました。とくに70歳以上は2年で3,288人増えています。
医師の総数が増えているのは事実ですが、その増え方は「若い医師が増えている」ではなく、「長く働き続ける医師が増えている」形です。年齢を重ねた医師が一線を退いていくと、そのぶんを次の世代が埋める必要があります。「医師の数が増えている=もう足りている」とは、この数字からは言い切れません。
それでも医師が足りない県がある|東京と青森で1.8倍の差
国全体の数字とは別に、国は都道府県ごとの医師の多さを「医師偏在指標」という物差しで比べています。人口だけでなく、住んでいる人の年齢や、医師の年齢・性別まで考えて計算した数字です。2026年春に更新された値で並べました。

| 区分 | 都道府県(医師偏在指標) |
|---|---|
| 医師が多い 16都府県 |
東京 358.6、京都 326.6、福岡 320.4、岡山 302.7、沖縄 300.3、長崎 298.7、高知 296.0、大阪 294.7、徳島 293.9、和歌山 292.4、島根 284.8、石川 283.2、佐賀 281.8、兵庫 281.1、鳥取 278.8、奈良 277.1 |
| 中くらい 15道県 |
鹿児島 276.7、香川 273.4、滋賀 272.1、大分 270.9、熊本 270.4、宮城 267.8、福井 265.5、広島 264.0、愛媛 263.6、山梨 260.1、愛知 258.3、神奈川 254.4、富山 252.5、三重 244.4、北海道 243.6 |
| 医師が少ない 16県 |
青森 194.4、茨城 197.5、岩手 200.4、新潟 201.7、埼玉 207.2、秋田 211.5、山形 216.5、千葉 221.9、福島 222.7、静岡 228.8、群馬 231.5、長野 232.6、岐阜 234.2、栃木 238.7、山口 241.1、宮崎 243.0 |
いちばん高い東京は358.6、いちばん低い青森は194.4で、1.8倍の差があります(全国は266.8)。国はこの物差しで、上位3分の1の16都府県を「医師多数県」、下位3分の1の16県を「医師少数県」としています。医師少数県は東北と関東・中部に多く、埼玉や千葉のように人口の多い県も入っています。
九州・沖縄でも分かれます。福岡県は320.4で全国3位の医師多数県で、佐賀・長崎・沖縄も多数県です。一方で宮崎県は243.0で医師少数県に入ります。熊本・大分・鹿児島は中くらいです。同じ九州でも、県によって状況がまったく違います。
ただし、厚生労働省は、この指標は「医師の絶対的な充足状況を示すものではなく、あくまでも相対的な偏在の状況を表すもの」と注意書きをしています。「多数県だから医師が余っている」という意味ではない点に気をつけてください。
若い医師は、医師が少ない県で増えている
もう1つ、明るい数字もあります。35歳未満の若い医師の数を、2012年と2024年で比べたものです。
| 区分 | 2012年 | 2024年 | 増え方 |
|---|---|---|---|
| 全国 | 58,590人 | 67,683人 | +15.5% |
| 医師が多い県(16都府県) | 28,228人 | 29,921人 | +6.0% |
| 中くらいの県(15道県) | 16,891人 | 19,736人 | +16.8% |
| 医師が少ない県(16県) | 13,471人 | 18,026人 | +33.8% |
医師が少ない16県では、若い医師が33.8%増えました。医師が多い16都府県の6.0%の5倍以上です。厚生労働省は、地域枠で入学した医師を含めた取り組みが、医師の地域の偏りを縮めるのに一定の効果を持つことがうかがえる、としています。
地域枠は、卒業後に決められた地域で働くことを条件に入学する枠で、2025年度は1,847人、定員の約5人に1人(19.9%)になりました(2007年度は173人)。国は、臨時の定員を減らす一方で、大学のもともとの定員の中に地域枠を置くことを進めています。定員が減っても、地域枠という入り口の役割は小さくならない、ということです。
受験生と保護者にとって何が変わるのか
ここまでをまとめると、受験生と保護者の方に関係するのは次の3つです。
1. 入り口:医学部の定員は、2027年度から少しずつ減っていく。減るのは主に、医師が多い県の臨時の地域枠からです。2027年度入試ではすでに、長崎大学が臨時定員の扱いを「未定」、琉球大学・徳島大学などが募集人員を「調整中」としています。募集人員が確定するのは、多くが11月の学生募集要項です。
2. 出口:医師免許の価値がなくなるわけではない。推計が示しているのは「全国で見て需要と供給が釣り合う」ことで、医師が仕事に困るという話ではありません。しかも、足りない県ははっきり残っています。国は医師が少ない地域で働く医師を後押しする仕組みを強めているので、むしろ「どこで働くか」によって、求められ方が大きく変わっていくと考えられます。
3. 働き方:医師1人が働ける時間は短くなった。2024年4月から、医師の時間外労働には上限がつきました。1人の医師が長く働いて支える形が見直されると、同じ医療を続けるのに必要な医師の数は増えます。推計が労働時間ごとに答えを分けているのは、このためです。
太宰府アカデミーの視点|「余る」という見出しで進路を決めない
ここまでの数字を、進路を考えるときにどう使うかを書きます。
1. 「医者が余る」という見出しだけで、医学部を目指すのをやめない。国の推計は、全国の合計で需要と供給が釣り合うという話です。医師が少ない16県は今もあり、若い医師が減った年代もあります。見出しの一言だけで判断すると、数字が語っている中身とずれてしまいます。
2. 地域枠は「入りやすさ」より「どこで働くか」の選択として考える。定員が減る流れの中でも、地域枠は国が残そうとしている入り口です。ただ、卒業後に決められた地域で9年ほど働く義務がつくことが多く、離れると修学資金を一括で返すことになります。自分がその地域で働く将来を描けるかどうかで考えてください。
3. 2027年度の募集人員は、必ず11月の学生募集要項で確かめる。臨時定員の見直しで、いま出ている募集人員が変わる大学があります。前の年の人数のつもりで出願計画を立てず、確定した数字で最後の判断をしてください。
4. 医学部に入ってからも、診療科と地域の「偏り」の情報を追う。医師になったあとに何科を選び、どこで働くかで、求められ方は変わります。これは入試の話ではありませんが、医学部を目指す理由を考えるときの大事な材料になります。
医者は余るのかについてよくある質問
Q. 将来、医者になっても仕事がなくなりますか。
A. 国の推計が示しているのは、全国で見て需要と供給が2029年ごろに釣り合い、その後は供給が少しずつ上回るという見通しです。医師が仕事に困るという予測ではありません。医師が少ない県は今もあり、国はそうした地域で働く医師を後押しする仕組みを強めています。
Q. 医学部の定員は、どれくらい減りますか。
A. 2027年度は、医師が多い県の臨時定員の地域枠を、2024年度の数の2割ぶん減らすのが基本です(条件によって戻す仕組みがあります)。全体の数は、文部科学省が例年10月ごろに翌年度の定員を公表するので、そこで確定します。
Q. 定員が減ると、医学部は入りにくくなりますか。
A. 定員が減る一方で、受験する年代の人数も減っていきます。両方が動くので、「入りにくくなる」とも「入りやすくなる」とも言い切れません。受験人口の見通しは医学部は少子化で入りやすくなるのかにまとめています。
Q. 地域枠の定員も減りますか。
A. 減るのは主に、医師が多い県の「臨時定員」の地域枠です。国は、大学のもともとの定員の中に地域枠を置くことを進めていて、地域枠そのものをなくす方向ではありません。地域枠のしくみは医学部の地域枠とはにまとめています。
まとめ|医者は余るのか、で押さえる5点
この記事の要点です。
− 国の推計(2020年)では、医師の需要と供給は2029年ごろ約36万人で釣り合う。その後は供給が上回る見込みですが、医師が仕事に困るという予測ではありません。
− 医学部の定員は2017年度の9,420人がピークで、2026年度は9,376人。国は2027年度から全体として減らす方向で、財務省は「過剰は確定的」と大胆な削減を求めています。
− 医師は2024年末で347,772人。ただし2年間で増えたのは60歳以上(+4,773人)で、59歳以下は1,125人減った。
− 医師偏在指標は東京の358.6から青森の194.4まで1.8倍の差。九州でも福岡県は多数県、宮崎県は少数県です。
− 若い医師は医師が少ない県で33.8%増えた。地域枠(定員の約5人に1人)の役割は、定員が減っても残ります。長崎大学・琉球大学など、2027年度の募集人員が未確定の大学もあります。
明日からできることは1つです。自分が住んでいる県と、受けたい大学がある県の医師偏在指標を、上の表で確かめてみてください。医師が多い県か少ない県かで、地域枠の数や、これからの定員の動き方が変わります。
この記事を書いたのは、「医者は余る」という言葉だけが先に広がって、医学部を目指すかどうか迷う受験生と保護者の方が出てきていると感じたからです。国の資料を読むと、見出しよりずっと細かい話が書かれていました。何が決まっていて、何がまだ動いているのかを知ったうえで、進路を考えてもらえたらと思います。
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