こんにちは、福岡の医学部予備校で総務・広報を担当している後藤です。
今日は、生徒からいちばん質問の形がぼやけたまま届く話を書きます。「精神科医って、どういう人が向いてるんですか」です。
この質問に、僕はずっと「人の話を聞くのが好きな人」と答えるのが気持ち悪いと思っていました。それは仕事の中身を1つも説明していないからです。そこで今回は、国が出しているデータだけで精神科という仕事の輪郭を描きます。
先に、この記事でいちばん伝えたいことを書きます。精神科は、医師が法律にもとづいて「本人の同意によらない入院」を判定する、ただ1つの診療科です。その判定が必要になった件数は、令和5年度だけで184,861件ありました。
この記事を開いた方は、たぶんこんなことを思っています。
− 精神科医って、実際どんな仕事をしてるの?
− 他の科より楽って本当? 当直とかどうなの?
− 精神科を選ぶ医師って、増えてるの? 減ってるの?
ひとつずつお答えします。
この記事の目次
結論|精神科は「話を聞く科」ではなく「判定する科」です
最初に全体像を1つ。精神科を主たる診療科とする医師は17,259人。医療施設で働く医師331,092人の5.2%で、全診療科のなかで5番目に多い科です(令和4年)。平均年齢は52.6歳、そのうち12,364人が病院に勤めています。
そのうえで、精神科がほかの科と決定的に違うところが1つあります。
精神保健福祉法という法律が、「患者本人の意思によらない入院や行動制限の判定を行う者」を厚生労働大臣が個別に指定する、と定めていることです。この指定を受けた医師が精神保健指定医です。

| 条件 | 中身 | |
|---|---|---|
| 必要 | 5年以上、診断または治療に従事した経験 | 医師免許を取ってから5年。医学部6年と合わせて最短11年です |
| 必要 | うち3年以上、精神障害の診断または治療に従事した経験 | 精神科の専門研修(3年以上)がここに重なります |
| 必要 | 8例以上のケースレポート | 統合失調症圏2例以上を含む6分野。週4日以上その患者を診た症例に限られます |
| 必要 | 厚生労働大臣の登録を受けた者が行う研修(申請前1年以内) | 法令・人権・精神医学・事例研究など、科目と時間数が省令で決まっています |
| 注意 | 申請しても通らないことがあります | 令和5年度前期の申請では、諮問対象428名のうち49名が「指定は不適当」とされました |
条件は4つ。①5年以上の診断・治療の経験 ②うち3年以上の精神障害の診断・治療の経験 ③8例以上のケースレポート ④厚生労働大臣の登録を受けた研修の修了です。
③のケースレポートには細かい決まりがあります。統合失調症圏2例以上を含む6分野について、精神病床のある医療機関で常時勤務し、指導医のもとで、少なくとも週4日以上その患者を診た症例でなければなりません。原則として入院から退院まで継続して診た症例に限られます。
そして、申請すれば通るものでもありません。令和5年度前期の指定申請では、諮問の対象となった428名のうち49名が「指定することが不適当」とされ、379名が口頭試問に進みました。
出典:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 第18条、厚生労働省「精神保健指定医の指定等に関する参考資料」、医道審議会医師分科会精神保健指定医資格審査部会 議事要旨(2024年1月15日)。制度の詳細は厚生労働省の最新の事務取扱要領でご確認ください。
年18万件|本人の同意によらない入院が、実際にどれだけあるか
では、その判定は年にどれだけ行われているのか。国が毎年数えています。
| 項目 | 令和5年度 | 補足 |
|---|---|---|
| 医療保護入院の届出数 | 184,861件 | 前年度から3,074件(1.7%)増えています |
| 措置入院患者数(年度末) | 1,388人 | 前年度から280人(16.8%)減っています |
| 申請通報届出数 | 26,403件 | うち9,955人が実際に診察を受けています |
医療保護入院の届出は、令和5年度で184,861件。前年度から3,074件(1.7%)増えています。医療保護入院は、本人の同意が得られない場合に、精神保健指定医の診察と家族等の同意によって行われる入院です。措置入院(自傷他害のおそれがある場合の都道府県知事による入院)は年度末で1,388人でした。
この数字を、僕は「精神科の仕事量」としてではなく、「精神科医が引き受けている責任の量」として読んでいます。人の自由を制限する判断を、医師の名前で行う。だから国は、この判定ができる医師を1人ずつ審査して指定しているわけです。
ここが、「話を聞くのが好き」という適性の話とまったく違う部分です。精神科に向いているかどうかを考えるなら、この判定を担うことに自分が耐えられるか、をまず考えることになります。
出典:厚生労働省「令和5年度衛生行政報告例の概況」(令和6年10月29日公表)。医療保護入院の届出数は件数、措置入院患者数は年度末現在の人数です。
働き方|年1,860時間を超える医師の割合は0.8%
「精神科は他の科より楽なんでしょ」とよく聞かれます。時間だけで見れば、数字は出ています。

| 診療科 | 所属医師数 | 年1,860時間超 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 産婦人科 | 2,128名 | 150名 | 7.0% |
| 脳神経外科 | 1,321名 | 76名 | 5.8% |
| 外科 | 4,883名 | 248名 | 5.1% |
| 救急科 | 1,400名 | 43名 | 3.1% |
| 小児科 | 2,508名 | 70名 | 2.8% |
| 全診療科 | 43,718名 | 1034名 | 2.4% |
| 内科 | 12,340名 | 220名 | 1.8% |
| 麻酔科 | 2,408名 | 41名 | 1.7% |
| 精神科 | 1,534名 | 12名 | 0.8% |
| 眼科 | 1,791名 | 11名 | 0.6% |
| 放射線科 | 2,075名 | 6名 | 0.3% |
| 皮膚科 | 1,602名 | 4名 | 0.2% |
年間の時間外・休日労働が1,860時間を超える医師の割合は、全診療科で2.4%(43,718名のうち1,034名)。精神科は0.8%(1,534名のうち12名)でした。いちばん高いのは産婦人科の7.0%、次いで脳神経外科5.8%、外科5.1%です。
ただし、ここは慎重に読んでください。この数字が測っているのは労働時間の長さだけです。精神科の負荷は、拘束時間よりも、上で見た判定の重さや、自分を傷つけようとしている人に向き合い続けることのほうにあります。時間が短いことと、負担が軽いことは別のものです。
それでも、「6年間の医学部を出たあと、どういう時間の使い方になるか」を考える材料としては、この数字は正直な指標だと思います。診療科ごとの時間外の差は、大学を卒業したあとの30年をどう過ごすかに直結します。
出典:厚生労働省の調査(令和4年)より太宰府アカデミー集計。年1,860時間は、医師の働き方改革でC水準等の上限とされている時間です。
精神科を選ぶ医師は増えているのか|専攻医547人・9年で+24%
次に、実際にどれだけの医師が精神科を選んでいるか。

| 診療科 | 2018年度 | 2026年度 | 2018年比 |
|---|---|---|---|
| 内科 | 2,670名 | 3,129名 | +17.2% |
| 外科 | 805名 | 996名 | +23.7% |
| 整形外科 | 552名 | 773名 | +40.0% |
| 精神科 | 441名 | 547名 | +24.0% |
| 小児科 | 573名 | 543名 | -5.2% |
| 救急科 | 267名 | 527名 | +97.4% |
| 麻酔科 | 495名 | 495名 | +0.0% |
| 産婦人科 | 441名 | 478名 | +8.4% |
| 全19領域の合計 | 8,410名 | 9,998名 | +18.9% |
2026年度に精神科の専攻医として採用されたのは547名。全19領域のなかで4番目に多い数です。1位は内科3,129名、2位は外科996名、3位は整形外科773名。5位が小児科543名、6位が救急科527名でした。
9年の推移も見ておきます。太字がピークの年です。
| 年度 | 精神科の専攻医 | 2018年比 |
|---|---|---|
| 2018 | 441名 | ― |
| 2019 | 465名 | +5.4% |
| 2020 | 517名 | +17.2% |
| 2021 | 551名 | +24.9% |
| 2022 | 571名 | +29.5% |
| 2023 | 562名 | +27.4% |
| 2024 | 570名 | +29.3% |
| 2025 | 540名 | +22.4% |
| 2026 | 547名 | +24.0% |
2018年の441名から2026年の547名へ、24.0%増えています。ただし2022年の571名がピークで、そこからは横ばいから微減です。全19領域の合計が8,410名から9,998名へ18.9%増えているので、精神科は「全体の伸びと同じくらいのペースで増えたが、ここ4年は止まっている」という形になります。
もう1つ、進路として知っておいたほうがいい制度があります。専攻医の採用にはシーリング(都市部の定員制限)があり、精神科は令和9年度で10都府県が対象です。東京・石川・京都・岡山・広島・香川・福岡・佐賀・熊本・沖縄。福岡も入っています。地元で精神科の専攻医になろうとすると枠の取り合いがある、ということです。
出典:厚生労働省 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会 資料1「令和8年度の専攻医採用と令和9年度の専攻医募集について」(令和8年7月15日)。専攻医=専門医になるための研修を受けている医師です。
患者はどこにいるか|精神科が診る外来患者は1日21万7千人
もう1つ、進路を考えるうえで見ておきたいのが「患者がどこにいるか」です。
国は令和5年の患者調査から、1日あたりの推計外来患者数が多い傷病を40位まで整理しています。そこから精神科が診る傷病を抜き出しました。

| 傷病名 | 1日あたりの推計外来患者数 | 全40傷病中 | 主に診るのは |
|---|---|---|---|
| うつ(気分障害、躁うつ病) | 76.8千人 | 15位 | 精神科 |
| 認知症 | 58.1千人 | 20位 | 精神科・脳神経内科 |
| 不安・ストレス(神経症) | 52.9千人 | 21位 | 精神科 |
| 統合失調症 | 49.5千人 | 23位 | 精神科 |
| 睡眠障害 | 38.1千人 | 27位 | 精神科 |
| 4つの合計(認知症を除く) | 217.3千人 | ― | 精神科 |
| 参考:皮膚の疾患 | 293.9千人 | 4位 | 皮膚科 |
| 参考:がん | 109.6千人 | 12位 | 各科 |
単独では、うつが15位(76.8千人)で最上位です。上位10位には1つも入りません。ところがうつ・不安・統合失調症・睡眠障害の4つを足すと217.3千人になり、4位の皮膚の疾患(293.9千人)に近づきます。認知症(58.1千人)を加えると275.4千人です。
ただし認知症は精神科と脳神経内科の両方が診るので、単純に足した数字を「精神科の患者数」として扱わないでください。そこを分けたうえでも、精神科は「1つ1つは目立たないが、足すと大きい」科だということが分かります。
地方での分布も見ておきます。国は医師少数区域(108の二次医療圏)について、診療科ごとに全国平均と比べた医師数の比率を出しています。
| 診療科 | 全国平均の0.6倍未満 | その割合 | 全国平均以上(1.0以上) |
|---|---|---|---|
| 放射線科 | 92圏域 | 85.2% | 4圏域 |
| 救急科 | 91圏域 | 84.3% | 7圏域 |
| 麻酔科 | 89圏域 | 82.4% | 2圏域 |
| 皮膚科 | 73圏域 | 67.6% | 0圏域 |
| 産婦人科 | 64圏域 | 59.3% | 3圏域 |
| 全診療科 | 40圏域 | 37.0% | 12圏域 |
| 精神科 | 34圏域 | 31.5% | 26圏域 |
| 内科 | 20圏域 | 18.5% | 6圏域 |
精神科は、医師少数区域108圏域のうち26圏域で全国平均以上でした。これは16診療科のなかで最も多い数字です。全国平均の0.6倍を切る圏域は34(31.5%)で、放射線科の92(85.2%)や救急科の91(84.3%)とは事情がかなり違います。単科の精神科病院が地方に立地していることの影響と読めます。
出典:厚生労働省「患者調査」(令和5年)および医師・歯科医師・薬剤師統計(令和4年)。第12回 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 資料2-2(令和8年3月3日)より太宰府アカデミー集計。
太宰府アカデミーの視点|向いているかを判断する3つの観点
ここまでの数字を、進路の判断にどう使うか。観点を3つ挙げます。
①「話を聞くのが好き」を適性の根拠にしない。
精神科の中心にあるのは、年18万件の判定を担う仕事です。診断をつけ、入院が必要かどうかを法律にもとづいて判断し、その判断に自分の名前で責任を持つ。傾聴はその土台のひとつではありますが、それだけでは仕事の説明になりません。向き不向きを考えるなら、「決めること」に耐えられるかを先に考えるほうが正確です。
②時間外の数字を「楽かどうか」に読み替えない。
年1,860時間超が0.8%というのは事実ですが、これは拘束時間の話です。精神科の負荷は、時間ではなく、判断の重さと、答えが出ないまま続く関係のほうに出ます。数字で言えるのは「他の科と比べて時間の使い方が違う」までで、そこから先は、実際にその現場を見た人にしか分かりません。大学に入ってからの病院実習で、精神科の病棟を必ず自分の目で見てください。
③いま決めなくていい。ただし、入る大学によって見え方は変わる。
精神科医になるのは、医学部6年+臨床研修2年+専門研修3年で最短11年先の話です。高校生の段階で診療科を決める必要はまったくありません。ただ、大学によって精神科の講座の規模も、実習で回る病院も違います。気になっているなら、志望する大学のシラバスや附属病院の診療科の構成を見ておくと、オープンキャンパスでの質問が具体的になります。そのうえで、精神科を含めた診療科の話は、大学に入ってからの6年間で決めれば十分に間に合います。
そのうえで、この記事の数字は令和4年から令和8年にかけて公表されたものです。専攻医の採用数は毎年、患者調査は3年ごとに更新されます。進路を最終的に決める段階では、そのときの最新の数字で確認してください。
よくある質問
Q. 精神科医になるには何年かかりますか?
A. 大学の医学部6年+臨床研修2年+専門研修3年で、最短11年です。さらに精神保健指定医になるには、医師免許取得後5年以上(うち精神障害の診断・治療が3年以上)の実務経験と8例以上のケースレポートが必要になります。
Q. 精神科医は何人いますか?
A. 主たる診療科を精神科とする医師は17,259人(令和4年)で、全診療科のなかで5番目に多い科です。医療施設で働く医師331,092人の5.2%にあたります。平均年齢は52.6歳、うち12,364人が病院勤務です。
Q. 精神科は当直が少なくて楽と聞きましたが本当ですか?
A. 年1,860時間を超える時間外・休日労働をしている医師の割合は0.8%で、全診療科の平均2.4%より低い数字です。ただしこれは労働時間の長さだけを見た数字で、判断の重さや精神的な負荷は別に考える必要があります。
Q. 精神科を選ぶ医師は増えていますか?
A. 専攻医の採用数は2018年の441名から2026年の547名へ24.0%増えました。ただし2022年の571名がピークで、そこからは横ばいです。全19領域の合計が18.9%増えているので、全体とほぼ同じペースだったことになります。
まとめ
- 精神科医は17,259人で、全診療科のなかで5番目に多い科(令和4年)。平均年齢52.6歳、うち12,364人が病院勤務です
- 本人の同意によらない医療保護入院の届出は、令和5年度で184,861件。これを判定できるのは、厚生労働大臣が1人ずつ指定する精神保健指定医だけです
- 指定の条件は、5年以上の実務・うち3年以上の精神科実務・8例以上のケースレポート・研修の修了。令和5年度前期の申請では428名のうち49名が「指定は不適当」とされました
- 年1,860時間超の時間外労働は0.8%(全診療科2.4%)。ただし時間の長さと負荷の重さは別のものです
- 2026年度の専攻医採用は547名で4位。2018年比+24.0%ですが2022年の571名がピークです。令和9年度のシーリング対象は10都府県で、福岡も入っています
結論です。精神科に向いているのは、「決めること」から逃げない人だと、僕はこのデータを見て思いました。年18万件の判定は、誰かが引き受けなければ回りません。いま高校生なら、この進路を決めるのは11年先の話なので、急がなくて大丈夫です。そのかわり、志望する大学の附属病院にどんな診療科があるかだけは、オープンキャンパスや大学のサイトで一度見ておいてください。診療科の話は、進路を決める話であると同時に、どの大学で6年間を過ごすかの話でもあります。
あわせて読みたい
- 精神科医になるには?医学部6年+研修5年の最短11年ルート(資格と年数の道筋はこちらに詳しく書いています)
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- 外科医に向いている人|専門医になるには手術350例(同じ形で外科を見ています。並べて読むと違いが分かります)
- 医学部は何年?医者になるには6年・専門医まで最短11年(医師になるまでの全体の年数はこちらです)
この記事を書いたのは、「精神科は話を聞くのが好きな人が向いている」という説明で、生徒を送り出したくなかったからです。その説明は優しいけれど、仕事の中身を1つも伝えていません。年18万件の判定を担っている科だと知ったうえで「それでも」と言える人にこそ、向いていると思っています。だから今回は、感想を1つも書かずに国のデータだけを並べました。
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後藤 登(Goto Noboru)
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