こんにちは、太宰府アカデミーで広報/完全個別指導コースを担当している後藤です。
「外科医に向いている人ってどんな性格ですか」——よく聞かれます。「決断が速い人」「手先が器用な人」「体力がある人」といった答えをよく見かけますが、その根拠を示した資料を、僕は見つけられませんでした。
そこでこの記事では性格の話をしません。代わりに外科という科を、確かめられる数字で書きます。いちばん大きい数字はこれです。
外科専門医になるには、手術350例(うち術者として120例)が必要です。日本外科学会が受験資格として定めています。
この記事を開いた方は、たぶんこんなことを思っています。
− 外科医に向いてる人って、結局どんな人?
− 外科ってやっぱりきついの?
− 女性でも外科医になれるの?
ひとつずつ答えます。
この記事の目次
結論:性格ではなく、外科という科は数字で見える
先に答えを出します。
- 外科医になるまでは最短11年。医学部6年+初期臨床研修2年+外科の専門研修3年です
- 専門医の要件は経験の量。手術350例、うち術者として120例。領域別にも最低数が決まっています
- 外科系の女性比率は1割前後。心臓血管外科7.0%、外科9.7%。ただし乳腺外科だけは53.4%で過半数です
- 長時間労働の割合は5.1%で19領域中3位。それでも専攻医は2018年度の805人から2026年度996人へ+23.7%増えています
外科医になるまで|最短11年と、手術350例

3段目までは、どの科に進む人も同じです。医学部でも初期臨床研修でも、外科志望の人だけが違うことをするわけではありません。大学によって外科の授業が特別に多いということもありません。外科らしさが出るのは4段目からで、専門研修は3年間。この間に手術の経験を積みます。
| 段階 | かかる年数 | 年齢の目安 | そこで何が決まるか |
|---|---|---|---|
| 医学部 | 6年 | 18歳 → 24歳 | まだ科は決めない。全員が同じ内容を学ぶ |
| 医師国家試験 | ― | 24歳 | 合格して医籍登録。ここで「医師」になる |
| 初期臨床研修 | 2年 | 24歳 → 26歳 | 必修。内科・救急・外科・小児科・産婦人科・精神科・地域医療をひと通り回る |
| 外科の専門研修 | 3年 | 26歳 → 29歳 | ここで科が決まる。手術350例(うち術者120例)を積む |
| 外科専門医 | ― | 29歳ごろ | 筆記試験に合格して認定される |
専門医試験の受験資格として、日本外科学会が定めている最低手術経験数がこちらです。
| 領域 | 最低手術経験数 | 備考 |
|---|---|---|
| 合計 | 350例 | 領域別分野を問わず |
| うち術者として | 120例 | 術者・助手を問わず数える合計とは別枠 |
| 消化管及び腹部内臓 | 50例 | ― |
| 乳腺 | 10例 | ― |
| 呼吸器 | 10例 | ― |
| 心臓・大血管 | 10例 | ― |
| 末梢血管 | 10例 | ― |
| 頭頸部・体表・内分泌外科 | 10例 | ― |
| 小児外科 | 10例 | ― |
| 外傷 | 10点 | 手術のほか講習会の受講でも加点される |
| 内視鏡手術 | 10例 | 領域別分野・術者/助手を問わない |
合計350例のうち、術者として120例。助手ではなく、自分の手で執刀した数です。領域別にも最低数が決まっていて、消化管及び腹部内臓50例のほか、乳腺・呼吸器・心臓大血管・末梢血管・頭頸部・小児外科・内視鏡手術がそれぞれ10例ずつ必要になります。
ここが外科という科のいちばんの特徴です。知識だけでは要件を満たせません。手を動かした回数が、そのまま資格の条件になっています。なお初期臨床研修での経験も加算できます。
外科系の女性は1割。ただし乳腺外科だけ53.4%
「女性でも外科医になれるのか」への答えです。数字から見ていきます。

病院に勤務する医師の女性比率は、心臓血管外科7.0%、整形外科7.6%、消化器外科9.2%、外科9.7%。全43区分のなかでも低いほうに固まっています。
ところが乳腺外科だけは53.4%。同じ外科系でありながら、過半数が女性です。全43区分でも皮膚科57.2%に次いで2番目に高い数字になっています。
| 順 | 診療科 | 医師数 | 平均年齢 | 病院で働く割合 | 女性比率(病院勤務) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 心臓血管外科 | 3,084 | 47.6歳 | 95.6% | 7.0% |
| 2 | 整形外科 | 22,630 | 52.5歳 | 64.8% | 7.6% |
| 3 | 脳神経外科 | 7,574 | 51.5歳 | 83.4% | 8.1% |
| 4 | 気管食道外科 | 94 | 46.0歳 | 94.7% | 9.0% |
| 5 | 消化器外科(胃腸外科) | 5,564 | 47.9歳 | 95.9% | 9.2% |
| 6 | 外科 | 12,341 | 53.9歳 | 81.8% | 9.7% |
| 7 | 呼吸器外科 | 2,119 | 45.9歳 | 98.9% | 11.2% |
| 8 | 肛門外科 | 431 | 60.5歳 | 40.1% | 15.0% |
| 9 | 小児外科 | 923 | 46.8歳 | 91.9% | 22.5% |
| 10 | 形成外科 | 3,354 | 44.3歳 | 74.1% | 37.6% |
| 11 | 美容外科 | 1,720 | 41.2歳 | 1.1% | 47.4% |
| 12 | 乳腺外科 | 2,329 | 49.5歳 | 79.1% | 53.4% |
この表から言えるのは、「外科は男性の科」とひとくくりにできないということです。領域によって働いている人の顔ぶれはまったく違います。小児外科22.5%、形成外科37.6%も、外科という括りの中では高い部類です。
もうひとつ添えておくと、臨床研修医の女性比率は34.7%、医師全体では24.4%です。若い世代ほど女性の比率が高いので、この表の数字はこれから動きます。
長時間労働は5.1%で3位。それでも人は増えている
「外科はきついのか」への答えです。

厚生労働省の調査で、時間外・休日労働が年1,860時間相当を超える医師の割合は、外科が5.1%(4,883人中248人)で19領域中3位。産婦人科7.0%、脳神経外科5.8%に次ぐ位置です。
人数で見ると外科の248人が最多で、内科の220人を上回ります。母数が違うので割合では産婦人科が上ですが、実数では外科がいちばん多いということになります。
| 順 | 診療科 | 所属医師数 | 1,860時間超 | 割合 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 産婦人科 | 2,128 | 150 | 7.0% |
| 2 | 脳神経外科 | 1,321 | 76 | 5.8% |
| 3 | 外科 | 4,883 | 248 | 5.1% |
| 4 | 救急科 | 1,400 | 43 | 3.1% |
| 5 | 小児科 | 2,508 | 70 | 2.8% |
| 6 | 総合診療 | 515 | 11 | 2.1% |
| 7 | 整形外科 | 2,257 | 48 | 2.1% |
| 8 | 内科 | 12,340 | 220 | 1.8% |
| 9 | 麻酔科 | 2,408 | 41 | 1.7% |
| 10 | 形成外科 | 848 | 14 | 1.7% |
| 11 | 泌尿器科 | 1,306 | 21 | 1.6% |
| 12 | 耳鼻咽喉科 | 1,476 | 18 | 1.2% |
| 13 | 病理 | 635 | 7 | 1.1% |
| 14 | 精神科 | 1,534 | 12 | 0.8% |
| 15 | 眼科 | 1,791 | 11 | 0.6% |
| 16 | リハビリテーション科 | 375 | 2 | 0.5% |
| 17 | 放射線科 | 2,075 | 6 | 0.3% |
| 18 | 皮膚科 | 1,602 | 4 | 0.2% |
| 19 | 臨床検査 | 184 | 0 | 0.0% |
| ― | 全体 | 43,718 | 1,034 | 2.4% |
ここで意外なのが専攻医の動きです。外科を選んだ専攻医は2018年度の805人から2026年度の996人へ、8年で+23.7%増えています。19領域のなかで2番目に多い数字です。
| 順 | 診療科 | 2018年度 | 2026年度 | 2018年度比 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 内科 | 2,670 | 3,129 | +17.2% | 31.3% |
| 2 | 外科 | 805 | 996 | +23.7% | 10.0% |
| 3 | 整形外科 | 552 | 773 | +40.0% | 7.7% |
| 4 | 精神科 | 441 | 547 | +24.0% | 5.5% |
| 5 | 小児科 | 573 | 543 | -5.2% | 5.4% |
| 6 | 救急科 | 267 | 527 | +97.4% | 5.3% |
| 7 | 麻酔科 | 495 | 495 | +0.0% | 5.0% |
| 8 | 産婦人科 | 441 | 478 | +8.4% | 4.8% |
| 9 | 泌尿器科 | 274 | 352 | +28.5% | 3.5% |
| 10 | 眼科 | 328 | 341 | +4.0% | 3.4% |
| 11 | 放射線科 | 260 | 290 | +11.5% | 2.9% |
| 12 | 総合診療 | 184 | 282 | +53.3% | 2.8% |
| 13 | 脳神経外科 | 224 | 269 | +20.1% | 2.7% |
| 14 | 耳鼻咽喉科 | 267 | 262 | -1.9% | 2.6% |
| 15 | 皮膚科 | 271 | 259 | -4.4% | 2.6% |
| 16 | 形成外科 | 163 | 210 | +28.8% | 2.1% |
| 17 | リハビリテーション科 | 75 | 129 | +72.0% | 1.3% |
| 18 | 病理 | 114 | 91 | -20.2% | 0.9% |
| 19 | 臨床検査 | 6 | 25 | +316.7% | 0.3% |
| ― | 19領域の合計 | 8,410 | 9,998 | +18.9% | 100.0% |
「きつい科ほど人が減る」という単純な話にはなっていません。整形外科(+40.0%)や救急科(+97.4%)も、長時間労働の割合が高いほうの科です。若い医師が何を基準に選んでいるのかは、この2つの表だけでは分かりません。ただ、「外科は敬遠されている」と言い切れる数字ではないことは確かです。
太宰府アカデミーの視点|「向いている性格」より確かめられること
ここまでの数字を、受験生と保護者の方がどう使えばいいかを書きます。
まず「手先が器用だから外科」「不器用だから外科は無理」という判断は、いま決めることではありません。科を選ぶのは医師免許を取った2年後、26歳のときです。初期臨床研修では外科も必修で回ります。その4週なり8週なりで、実際に手術室に入ってから考えても間に合います。
次に、志望校を「外科に強い大学かどうか」で選ぶ必要はありません。全国に医学部のある大学は81校ありますが、6年間のカリキュラムはモデル・コア・カリキュラムで共通の骨格が決まっていて、大学によって外科の学び方の枠組みが変わるわけではないからです。
三つめに、「350例」という要件は、研修先の選び方に効いてきます。手術件数の多い病院かどうかで、経験の積みやすさは変わります。ただしこれは大学選びの段階で決めることではありません。専門研修のプログラムは出身大学と関係なく全国から選べます。大学病院に残る道も、市中病院へ移る道もあります。
四つめに、女性で外科に興味がある方へ。いまの数字は1割前後ですが、これは長く働いてきた世代を含む平均です。臨床研修医の女性比率34.7%が示すとおり、入口の構成はすでに変わっています。数字が低いことと、進めないことは別の話です。
最後に。この記事の数字は全国の平均です。同じ外科でも、勤務先によって手術件数も労働時間もまったく違います。数字は科の輪郭をつかむために使い、最後は実際に働いている人の話を聞いて判断してください。
まとめ
「外科医に向いている人」への答えをまとめます。
- 性格の適性を示す公的なデータはありません。この記事では代わりに数字で書きました
- 外科医になるまでは最短11年。専門研修は3年で、その間に手術350例(うち術者120例)を積みます
- 外科系の女性比率は心臓血管外科7.0%〜外科9.7%。ただし乳腺外科だけは53.4%で過半数です
- 長時間労働の割合は5.1%で19領域中3位。人数では外科の248人が最多です
- それでも専攻医は805人→996人で+23.7%。19領域のなかで2番目に多く選ばれています
- 志望校を「外科に強い大学か」で選ぶ必要はありません。医学部のある大学81校はどこも共通のカリキュラムで、専門研修は出身大学と関係なく全国から選べます
いま高校生で外科に興味がある方は、まず医学部に入ることだけを考えてください。「向いているかどうか」は、初期研修で手術室に入ってから分かります。それまでに決めておく必要はまったくありません。
この記事を書いたのは、根拠のない「向いている性格」の話で、外科という選択肢を早々に閉じてしまう高校生がもったいないと思ったからです。350例という具体的な数字を知っておくほうが、進路の判断には役に立つはずです。
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