こんにちは、福岡の医学部予備校で総務・広報を担当している後藤です。
本日のブログは、受験生よりも先に保護者の方が心配される話題です。卒業試験です。
「医学部は入ってからのほうが大変らしい」「卒業試験で大量に落とされて、国家試験を受けさせてもらえない大学があるらしい」。こういう話は、医学部を目指すご家庭ならたいてい一度は耳にします。実際、「医学部 卒業試験」と検索する人は毎月かなりの数がいます。その隣には「ない大学」「難しい」「落ちた」という言葉が並びます。
ところが調べてみると、この話は不思議なことになっていました。卒業試験について、国はほとんど何も公表していません。実施しているかどうかも、いつやるのかも、何回あるのかも、全国をまとめた資料が見当たらないのです。それなのに「あの大学は厳しい」という話だけが流通しています。
そこで、文部科学省が公表している全81大学のデータから、卒業試験がどれくらいの関門になっているのかを計算し直しました。この記事で答えたいのは、次の3つです。
− 卒業試験って、そもそも誰が決めてるの?
− 実際、どれくらいの人が落ちてるの?
− 卒業試験がない大学って、あるの?
ひとつずつ、国の数字で見ていきます。
この記事の目次
- 1 結論|卒業試験は国の試験ではありません。落ちると国試を受けられません
- 2 卒業を決めているのは誰か|医師法第11条が指しているもの
- 3 数字で見る「6年生の壁」①|6年で卒業できなかったのは125人
- 4 数字で見る「6年生の壁」②|出願したのに受験しなかった202人
- 5 なぜそうなるのか|国試の出願は、卒業が決まる前の11月です
- 6 「卒試で絞ると国試合格率が上がる」は本当か|81校で確かめました
- 7 国試の合格率が9割を超える理由|分母は卒業できた人だけです
- 8 卒業試験がない大学はあるのか|答えは「公表されていない」です
- 9 太宰府アカデミーの視点|この数字を受験生と保護者はどう使うか
- 10 まとめ|医学部の卒業試験で押さえる5点
結論|卒業試験は国の試験ではありません。落ちると国試を受けられません
先に答えを書きます。
①卒業試験は、各大学が独自に課すものです。医師国家試験のような国の試験ではありません。だから実施の有無・時期・回数・合格基準は大学ごとに違い、公表の義務もありません。
②落ちると、医師国家試験を受けられません。国家試験の受験資格は「卒業」にひもづいているからです。卒業できなければ、その年の国家試験は受けられません。
③ただし、落ちている人数は思われているほど多くありません。文部科学省のデータでは、6年生まで上がったのに6年で卒業できなかったのは全国で125人。81大学のうち35校はゼロでした。むしろ大きいのは、国家試験に出願したのに受験しなかった202人のほうです。
この202人という数字が、この記事でいちばん伝えたいところです。順番に見ていきます。
卒業を決めているのは誰か|医師法第11条が指しているもの
まず制度の位置づけです。ここを取り違えると、後の数字の意味が変わってしまいます。
医師国家試験を受けられる人は、医師法第11条が定めています。その第1号が「大学において、医学の正規の課程を修めて卒業した者」です。つまり国家試験の受験資格は「卒業」にひもづいています。そして卒業を認めるかどうかを決めるのは、国ではなく各大学です。卒業の要件は、それぞれの大学が学則で定めています。
だから卒業試験は、大学が「この学生を医師の入口に送り出してよいか」を自分の責任で判断するための試験ということになります。国が様式を決めているわけではないので、名前も中身も大学によって違います。総合試験を何度も課す大学もあれば、そうでない大学もあります。
ここで、医学部6年間の関門を整理しておきます。1〜3年の進級試験、4年の共用試験(CBT・OSCE)、4〜6年の臨床実習、そして6年の卒業試験、最後に医師国家試験。このうち国の試験は共用試験と医師国家試験の2つだけです。共用試験は2023年度から国の制度になり、第121回からは国家試験の受験資格にも関わってきます(一定の経過措置があります)。
逆に言えば、進級試験と卒業試験は、最初から最後まで大学の裁量の中にあります。「あの大学は厳しい」という話が公的な資料で確かめにくいのは、そのためです。
数字で見る「6年生の壁」①|6年で卒業できなかったのは125人
では実際のところ、どれくらいの人が卒業試験の前で止まっているのか。文部科学省が公表している全81大学のデータで計算しました。令和元年度に入学した人たちを、第119回医師国家試験まで追いかけた数字です。
入学したのは9,456人。このうち6年間ストレートで6年生になれたのが8,201人で、そのまま6年で卒業したのが8,076人でした。つまり6年生まで上がったのに6年で卒業できなかったのは125人、割合にして1.52%です。

| 区分 | 6年生まで上がった人 | 6年で卒業した人 | 止まった人(割合) |
|---|---|---|---|
| 私立31校 | 3,059人 | 2,989人 | 70人(2.29%) |
| 国立42校 | 4,382人 | 4,335人 | 47人(1.07%) |
| 公立8校 | 760人 | 752人 | 8人(1.05%) |
| 全国81校 | 8,201人 | 8,076人 | 125人(1.52%) |
区分別に見ると、私立31校が2.29%、国立42校が1.07%、公立8校が1.05%でした。私立は国公立の約2倍ですが、それでも100人に2人という水準です。そして81大学のうち35校は、6年次で止まった人がゼロでした。
「卒業試験でごっそり落とされる」というイメージからすると、この数字は拍子抜けするかもしれません。入学した9,456人のうち1,255人は6年生に上がる前の段階で止まっており、留年の大半は1〜5年次で起きています。6年生の壁は、思われているほど高くない——ように見えます。
ただ、これは「6年で卒業したか」だけを見た数字です。もうひとつ、別の場所に出ている数字があります。
出典:文部科学省「医学部医学科の入学状況及び国家試験合格状況等について」(2025年12月公表)をもとに太宰府アカデミー集計
数字で見る「6年生の壁」②|出願したのに受験しなかった202人
同じ資料には、大学ごとの国家試験の出願者数と受験者数も載っています。ふつうは合格率しか見ない列です。ここを引き算してみました。
第119回に出願したのは9,440人。実際に受験したのは9,238人。その差、202人。出願したのに受験しなかった人が、それだけいたということです。6年次で卒業できなかった125人より多い数字です。

| 区分 | 国試に出願した人 | 実際に受験した人 | 差(割合) |
|---|---|---|---|
| 私立31校 | 3,699人 | 3,553人 | 146人(3.95%) |
| 国立42校 | 4,900人 | 4,849人 | 51人(1.04%) |
| 公立8校 | 841人 | 836人 | 5人(0.59%) |
| 全国81校 | 9,440人 | 9,238人 | 202人(2.14%) |
ここでも区分によって差が出ました。私立3.95%に対し、国立1.04%、公立0.59%。私立は国立の約3.8倍です。人数でいうと、202人のうち146人が私立の大学からでした。
なぜ出願したのに受験しないという事態が起きるのか。答えは国家試験の日程にあります。
ひとつだけ先に断っておきます。この差には体調不良や本人の判断による見送りも含まれます。202人すべてが卒業試験によるものだとは言えません。ただ、区分によって4倍近い差がつく理由を体調不良で説明するのは難しく、卒業判定と無関係とも考えにくい、という位置づけの数字です。
出典:文部科学省「医学部医学科の入学状況及び国家試験合格状況等について」(2025年12月公表)をもとに太宰府アカデミー集計
なぜそうなるのか|国試の出願は、卒業が決まる前の11月です
医師国家試験の日程を並べると、事情がはっきりします。2027年に行われる第121回の日程は、厚生労働大臣の告示で確定しています。

| 時期 | 何があるか |
|---|---|
| 2026年11月2日〜11月30日 | 受験書類の受付。多くは「卒業見込み」で出願します |
| 2027年2月6日・7日 | 第121回医師国家試験。試験地は12都道府県で、九州は福岡・熊本・沖縄 |
| 2027年3月9日 14時 | 卒業証明書の提出期限。卒業見込みで出願した人はここまでに提出します |
| 2027年3月16日 14時 | 合格発表。厚生労働省のホームページに掲載されます |
| 補足 | 受験手数料は15,300円。受験票は2027年1月上旬に発送されます |
受験書類の受付は2026年11月2日から11月30日。この時点で6年生はまだ卒業していないので、多くは「卒業見込み」で出願します。試験は翌年2月6日・7日。そして卒業証明書の提出期限は試験のあとの3月9日14時です。
つまり、出願する11月の時点では、卒業できるかどうかはまだ決まっていません。そのあとに卒業判定があり、そこで卒業が決まらなかった人は、出願していても2月の試験を受けられません。ここが202人の正体だと考えられます。
「卒業試験に落ちた」という言い方をすると一発勝負のように聞こえますが、実際には再試験を用意している大学が多く、1月から2月にかけて追試が続くという話もよく聞きます。国家試験の直前期に、まだ卒業が確定していない——これが6年生の1年間でいちばんしんどいところだと思います。
ちなみに試験地は12都道府県で、九州は福岡・熊本・沖縄の3県。福岡で受けられるので、九州の受験生は6年後に遠征しなくて済みます。
出典:厚生労働省「医師国家試験の施行について」(令和8年7月1日 厚生労働大臣告示)
「卒試で絞ると国試合格率が上がる」は本当か|81校で確かめました
ここまでの2つの数字を見ると、ある説明が浮かびます。「大学は国家試験の合格率を守るために、卒業試験で受かりそうにない学生を止めている」という話です。ネット上でよく見かける説明でもあります。
本当かどうか、全81大学の数字で確かめました。2つの数字がどれくらい連動しているかは、相関係数という物差しで測れます。+1に近いほど「片方が大きいともう片方も大きい」、0なら無関係、−1に近いほど「片方が大きいともう片方は小さい」という意味です。

| よく言われていること | 81大学で見ると | 相関係数 |
|---|---|---|
| 卒業試験で絞る大学ほど、国試合格率が高い | ほとんど連動していません | +0.14 |
| 6年次で止まる大学は、出願と受験の差も大きい | はっきり連動しています | −0.51 |
| 出願と受験の差が大きい大学ほど、国試合格率が高い | むしろ逆向きの関係でした | −0.39 |
結果はこうでした。6年次の卒業率と国試合格率の相関は+0.14。ほとんど連動していません。出願と受験の差と国試合格率の相関は−0.39で、むしろ差が大きい大学ほど国試合格率は低めという関係が出ています。「絞れば合格率が上がる」という説明は、このデータでは確かめられませんでした。
いっぽうで、6年次の卒業率と「出願と受験の差」の相関は−0.51と、はっきり出ました。6年次で止まる人が多い大学は、出願と受験の差も大きい。この2つは同じ「6年生の壁」の2つの出口だということです。
誤解のないように書いておきます。これは「卒業試験に意味がない」という話ではありません。相関はあくまで81大学を横に並べたときの傾向で、原因と結果を示すものでもありません。大学にはそれぞれの教育方針があり、数字の大小だけで良し悪しを語れるものではないと思っています。ただ、「合格率が高い大学=卒試で絞っている大学」という読み方は、少なくともこのデータでは支持されないとは言えます。
出典:文部科学省「医学部医学科の入学状況及び国家試験合格状況等について」(2025年12月公表)をもとに太宰府アカデミー集計
国試の合格率が9割を超える理由|分母は卒業できた人だけです
「医師国家試験の合格率はなぜ高いのか」という検索がよくあります。第120回(2026年)の合格率は91.6%、新卒に限ると94.7%。たしかに他の国家資格と比べると高い数字です。
理由はここまでの話でほぼ説明がつきます。合格率の分母は「受験した人」だからです。受験できるのは卒業した(見込みが立った)人だけで、その前に進級試験があり、共用試験があり、卒業試験があります。9,456人が入学して、6年で卒業したのは8,076人。この段階ですでに1,380人が6年での卒業に届いていません。
だから「合格率90%超だから簡単」と読むのは、順番が逆です。厳しい選抜を通った人だけが受けているから、合格率が高い。同じ理由で、既卒(いわゆる国試浪人)の合格率は第120回で54.6%まで下がります。新卒94.7%との差は40.1ポイントです。
受験生と保護者に見てほしいのは、合格率そのものより入学から6年後までの通過率のほうだと思います。そちらは大学ごとに大きく違い、当校でも毎年ランキングにしています(記事末尾にリンクを置いています)。
卒業試験がない大学はあるのか|答えは「公表されていない」です
最後に、いちばん検索されている質問です。「卒業試験がない大学はどこか」。
正直にお答えします。全国の医学部の卒業試験の実施状況をまとめた公的な資料は、探した範囲では見つかりませんでした。文部科学省も厚生労働省も、卒業試験については調査・公表をしていません。そもそも国の試験ではないので、当然といえば当然です。したがって「この大学には卒業試験がない」と断定的に書いてあるページは、何を根拠にしているかを確かめたほうがいいと思います。
そのうえで、はっきりしていることが2つあります。
1つめ。卒業試験を免除する仕組みを公表している大学があります。自治医科大学は、5年生の終了時点で国家試験の合格レベルに達している学生に対し、6年生での授業の出席と卒業試験を免除する「フリーコース・スチューデントドクター(FCSD)制度」を2011年度から導入しています。これは大学概要にはっきり書かれています。卒業試験の重さは、大学によっても学生によっても違うということです。
2つめ。データからは「6年次で止まる人がいない大学」が分かります。先ほどの81大学のうち、6年次で止まった人がゼロだったのは35校。出願と受験の数が同じだった大学は36校。その両方に当てはまる大学が22校ありました。卒業試験があるかどうかは分かりませんが、少なくともこの年、6年生の段階で止まった人はいなかった大学が22校ある、ということです。
調べていて思ったのですが、この質問をする人が本当に知りたいのは「試験があるかどうか」ではなく「自分が6年で卒業できそうか」のほうだと思います。それなら、卒業試験の有無より、進級率と卒業率のほうがずっと役に立ちます。
太宰府アカデミーの視点|この数字を受験生と保護者はどう使うか
ここからは、この数字をどう使うかという話です。3つ挙げます。
1つめ。志望校を選ぶときは、卒業試験の噂ではなく進級率と卒業率を見ること。卒業試験の実施状況は公表されていませんが、6年次進級率と卒業率、国試合格率は文部科学省が毎年公表しています。同じ「6年で医師になる確率」でも、進級率が低い大学と国試合格率が低い大学では、入学後に起きることがまったく違います。前者は1〜5年次の日々の試験が、後者は6年次からの国試対策が焦点になります。どの段階に山があるのかが分かれば、入学後の6年間の過ごし方も具体的に想像できます。
2つめ。単年の数字で決めないこと。この記事の数字は令和元年度入学者という1学年だけを追ったものです。1学年は100人前後なので、数人の増減で順位は大きく動きます。2年ぶんを並べて、同じ側にいるかどうかで見るくらいがちょうどいいと思います。ひとつの年の数字を「この大学は厳しい」と決めつける材料にはしないでください。
3つめ。保護者の方へ。この話は、入学前に脅す材料ではありません。6年生になってから止まるのは全国で125人、6年生まで上がった人の1.52%です。圧倒的多数は6年で卒業しています。怖がらせるためにこの記事を書いたのではなく、「入ってからも試験は続く」という当たり前を、入る前に共有しておくために書きました。医学部の6年間は、入試が終わったらゴールという設計にはなっていません。そこを知ったうえで送り出すのと、知らずに送り出すのとでは、最初の1年の受け止め方がまるで変わります。
まとめ|医学部の卒業試験で押さえる5点
最後に、この記事の要点を5つにまとめます。
・卒業試験は国の試験ではなく、各大学が独自に課すものです。医師法第11条により国家試験の受験資格は「卒業」にひもづくので、落ちるとその年の国家試験は受けられません
・6年生まで上がったのに6年で卒業できなかったのは、全国で125人(1.52%)。私立2.29%・国立1.07%・公立1.05%で、81大学のうち35校はゼロでした
・それより大きいのが国家試験に出願したのに受験しなかった202人(2.14%)。私立3.95%は国立1.04%の約3.8倍です。出願は11月で、卒業が決まる前に「卒業見込み」で出すため、ここに差が出ます
・「卒業試験で絞ると国試合格率が上がる」は、81大学のデータでは確かめられませんでした(相関+0.14)。むしろ出願と受験の差が大きい大学ほど合格率は低めでした(−0.39)
・国試の合格率が9割を超えるのは、分母が卒業できた人だけだからです。第120回は全体91.6%・新卒94.7%に対し、既卒は54.6%まで下がります
「卒業試験がない大学はどこか」という問いに、公的な資料で答えることはできませんでした。そのかわり、6年次で止まった人がゼロで、かつ出願と受験の数も同じだった大学が81校中22校あることは分かりました。自治医科大学のように、条件を満たした学生の卒業試験を免除する制度を公表している大学もあります。
この記事を書いたのは、「あの大学は卒試で落とすらしい」という噂だけが独り歩きしていて、その根拠になる数字がどこにも見当たらなかったからです。調べてみたら、噂の中身は思っていたのとだいぶ違いました。大学を選ぶ材料は、噂ではなく毎年公表されている進級率と卒業率のほうにあります。志望校が決まっている方は、まずそこを見てみてください。
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後藤 登(Goto Noboru)
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