こんにちは、太宰府アカデミーで広報/完全個別指導コースを担当している後藤です。
「産科と婦人科って、何が違うんですか」——これは生徒からも、保護者の方からも、本当によく出る質問です。
調べれば「産科は出産、婦人科は女性の病気」という説明はすぐ出てきます。ただ、たいていそこで止まってしまう。では「産婦人科」は何なのか。3つは並んだ別々の科なのか。看板が違えば、中にいる医師の資格も違うのか。——そこまで答えているページが、僕が探した限りでは1つも見つかりませんでした。
そこで今回は、診療内容の説明はいったん脇に置いて、法律の条文と国の統計だけで3つの関係を整理してみました。医療法施行令の条文まで降りたら、拍子抜けするくらいはっきりした答えが1行で書いてありました。
− 産科と婦人科と産婦人科は、並んだ3つの科なの?
− 「産科」と看板に書いてある先生は、産科の専門家なの?
− 看板が違うと、行く場所を変えたほうがいいの?
一つずつ、深掘りしていきます!
この記事の目次
結論|3つは並んだ別物ではなく、法律上は「産婦人科」が本体です
先に答えを書きます。産科と婦人科は、産婦人科と横並びの診療科ではありません。「産婦人科」という1つの診療科名の、言い換えとして法律が認めている名前です。
根拠は医療法施行令 第3条の2 第2項です。条文はこう書いてあります。
前項第一号ニ(1)に掲げる診療科名のうち、次の各号に掲げるものについては、それぞれ当該各号に掲げる診療科名に代えることができる。
一 産婦人科 → 産科又は婦人科
二 放射線科 → 放射線診断科又は放射線治療科
この3つの言葉の関係は、看板・資格・実態の3階建てに分けると1回で片づきます。

| 層 | 何で決まるか | 3つの関係 |
|---|---|---|
| 看板 | 医療法施行令 第3条の2 | 産婦人科が本体。産科・婦人科はその言い換え |
| 資格 | 専門医の基本領域19 | 産婦人科専門医の1つだけ。産科・婦人科の専門医は無い |
| 実態 | 主たる診療科の届出 | 産婦人科11,188人/婦人科2,218人/産科502人 |
ここから先は、この3階を1つずつ降りていきます。いちばん驚いてほしいのは2階の「資格」です。産科専門医も婦人科専門医も、この国には存在しません。
違い① 看板|法律が言い換えを認めた診療科は、14のうち2つだけ
病院やクリニックが名乗れる診療科名は、医師が自由に決められるわけではありません。医療法 第6条の6 第1項が「政令で定める診療科名」に限っていて、その一覧が医療法施行令 第3条の2 です。
| 区分 | 診療科名 |
|---|---|
| 単独で名乗れる(イ・ロ) | 内科/外科 |
| 単独で名乗れる(ニ(1)・14科) | 精神科/アレルギー科/リウマチ科/小児科/皮膚科/泌尿器科/産婦人科/眼科/耳鼻いんこう科/リハビリテーション科/放射線科/病理診断科/臨床検査科/救急科 |
| 言い換えが認められている(第2項) | 産婦人科 → 産科 又は 婦人科 放射線科 → 放射線診断科 又は 放射線治療科 |
| 政令に無く、厚生労働大臣の許可が要る | 麻酔科(許可を受けた医師の氏名も併せて広告する) |
単独で名乗ってよい診療科名は、内科・外科と、上の14を合わせた16です(このほかに「内科・外科+部位や疾病」の組み合わせが認められていて、呼吸器内科や糖尿病内科はここに入ります)。
そして冒頭で引いた第2項が、この14のうち産婦人科と放射線科の2つにだけ「代えることができる」名前を用意しています。「産科」「婦人科」という名前が存在するのは、この規定があるからです。眼科や小児科には言い換えがありません。「小児内科」という看板を見かけないのは、そういう理由です。
「産科」と書いてあっても、産科の専門家とは限りません
ここは患者の立場からいちばん誤解しやすいところなので、はっきり書いておきます。医療法も医療法施行令も、診療科名を掲げる条件として専門医資格を求めていません。条文が求めているのは「政令の一覧にある名前を使うこと」だけです。
例外は麻酔科です。麻酔科だけは政令の一覧に入っておらず、厚生労働大臣の許可が要ります(医療法 第6条の6 第1項)。しかも同じ条文の第4項で「許可を受けた医師の氏名を併せて広告しなければならない」とまで決められています。裏を返せば、それ以外の診療科名には、そこまでの縛りがないということです。
違い② 資格|産婦人科専門医は、4つの領域すべてを求められます
2階に降ります。資格の側では、そもそも産科と婦人科が分かれていません。
医師が専門研修(専攻医)で選ぶ基本領域は19あります。内科・外科・小児科・精神科などと並んで「産婦人科」が1つ。「産科専門医」「婦人科専門医」という基本領域は、19のどこにもありません。
では産婦人科専門医は何を求められるのか。日本産科婦人科学会の手引きに、そのまま書いてあります。
産婦人科専門医に求められる技能は周産期、婦人科腫瘍、生殖・内分泌、女性ヘルスケアの4領域にわたります。産婦人科専門医はこれら全ての領域に関して十分な知識・技能を持ち、標準的な医療の提供を行います。
| 産婦人科専門医に求められる4領域 | 主な内容 |
|---|---|
| 周産期 | 妊娠・分娩・産後、胎児と新生児 |
| 婦人科腫瘍 | 子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がんなど |
| 生殖・内分泌 | 不妊治療、ホルモンの異常 |
| 女性ヘルスケア | 月経の異常、更年期、女性の予防医療 |
「4領域のどれかを選ぶ」ではなく、「4領域すべて」です。専門医の認定試験に出す症例レポートも、この4分野それぞれから最低2症例ずつ提出することになっています。つまり、お産だけを扱ってきた医師も、婦人科のがんだけを診てきた医師も、そのままでは専門医になれない仕組みです。
制度そのものは1987年4月に発足し、2021年度からは日本専門医機構が認定する専門研修に一本化されました。研修は原則3年間のプログラム制で、資格は5年ごとに更新審査を受けます。もっと細かい専門を深める道もあり、周産期・婦人科腫瘍・生殖医療・女性医学の4つの学会がそれぞれ独自の認定を行っています。ただしその細分化も「産科と婦人科の2つ」ではなく4つで、産科・婦人科という2分割は、資格の世界には最後まで出てきません。
違い③ 実態|医師13,908人の内訳と、働く場所が逆になる理由
1階に降ります。資格が1つなら、では3つの言葉は何を分けているのか。答えは「その医師が何を主に診ているか」です。
医師は2年に1度、自分の主たる診療科を国に届け出ます。その最新の集計がこちらです。

| 主たる診療科 | 医師数 | 平均年齢 | 病院勤務 | 診療所など |
|---|---|---|---|---|
| 産婦人科 | 11,188人 | 50.0歳 | 7,123人 | 4,065人 |
| 婦人科 | 2,218人 | 56.1歳 | 898人 | 1,320人 |
| 産科 | 502人 | 46.3歳 | 383人 | 119人 |
| 合計 | 13,908人 | ― | 8,404人 | 5,504人 |
3つを足すと13,908人。そのうち産婦人科が11,188人=80.4%を占めます。産科だけ、婦人科だけを掲げている医師は少数派で、大多数の医師が妊娠・出産と婦人科疾患の両方を診ている——これが実像です。とくに「産科」はわずか502人。産婦人科の22分の1しかいません。
そのうえで、この表がもう1つ教えてくれることがあります。産科は502人中383人=76.3%が病院勤務で、平均年齢は46.3歳。婦人科は2,218人中1,320人=約6割が診療所勤務で、平均年齢は56.1歳です。働く場所も年齢層も、ほとんど逆になっています。
お産を扱うには分娩室と当直体制が要るので、産科は病院に集まります。一方の婦人科は、開業して長く続けている医師が多い。「産科と婦人科の違い」を診療内容だけで覚えるより、働く場所がまるで違うと押さえたほうが、実際の役に立ちます。
看板の数は、15年で逆の方向に動いています
ここまでは「いま」の話でした。最後に、この3つの言葉が15年でどう動いたかを見てください。国の医療施設調査は、どの病院がどの診療科を掲げているかを3年ごとに数えています。

| 一般病院が掲げる診療科 | 2008年 | 2023年 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 産婦人科 | 1,319 | 1,061 | −258 |
| 婦人科 | 743 | 885 | +142 |
| 産科 | 177 | 193 | +16 |
| 産婦人科+産科 | 1,496 | 1,254 | −242 |
| (参考)一般病院の総数 | 7,714 | 7,065 | −649 |
2008年から2023年までの15年で、「産婦人科」を掲げる一般病院は1,319から1,061へ258減り、同じ期間に「婦人科」は743から885へ142増えました。同じ母集団のなかで、逆の方向に動いています。
「産婦人科」と「産科」を合計した施設数で見ると、さらにはっきりします。2008年の1,496施設(一般病院の19.4%)から2023年は1,254施設(17.7%)へ。しかも国の表を年ごとに追うと、2009年から2023年まで、1年の例外もなく毎年前年を下回っています。一般病院そのものが7,714から7,065へ減っている影響もありますが、それを差し引いても比率が下がっています。
同じ看板でも、設備は同じではありません
もう1つ、同じ調査から。「産婦人科」または「産科」を掲げる一般病院1,254施設のうち、母体・胎児集中治療室(MFICU)があるのは128施設=10.2%、新生児特定集中治療室(NICU)があるのは336施設=26.8%です。
看板が同じでも、中身は同じではありません。「産婦人科と書いてあるから、ここでお産ができる」とは限らない、ということです。実際にお産の場所を選ぶときは、看板ではなく、その施設が分娩を扱っているかどうかを直接確認してください。
医学部を目指す人へ|産婦人科は年1,860時間超が7.0%=集計20科で最多
ここからは、将来この科を考えている受験生に向けた話です。いちばん先に知っておいてほしい数字を出します。

| 診療科 | 所属医師数 | 年1,860時間超 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 産婦人科 | 2,128人 | 150人 | 7.0% |
| 脳神経外科 | 1,321人 | 76人 | 5.8% |
| 外科 | 4,883人 | 248人 | 5.1% |
| 救急科 | 1,400人 | 43人 | 3.1% |
| 小児科 | 2,508人 | 70人 | 2.8% |
| 麻酔科 | 2,408人 | 41人 | 1.7% |
| 皮膚科 | 1,602人 | 4人 | 0.2% |
| 調査全体 | 43,718人 | 1,034人 | 2.4% |
時間外・休日労働が年1,860時間相当を超える医師の割合を、診療科別に出した国の調査です。対象となった医師43,718人の全体では2.4%。ところが産婦人科は2,128人中150人=7.0%で、集計された20の診療科のなかで最も高いという結果でした。いちばん低い皮膚科(1,602人中4人)とは、約28倍の開きがあります。
お産は時間を選んでくれません。ここは「やりがい」の話でごまかさずに、数字のまま受け止めておくべきところだと思っています。
ただし、この科を選ぶ人が減っているわけではありません。専門研修に進んだ専攻医の採用数は2026年度で478人。2018年度の441人から8.4%増えています。
さらに、進路の自由度という点では有利な材料があります。産婦人科は「シーリング」がかからない6つの診療科の1つです(ほかは外科・救急科・病理・臨床検査・総合診療)。シーリングとは、都市部に専攻医が集中しすぎないよう、都道府県ごとに採用数の上限を置く仕組みのこと。国が不足を認めている科には、この上限が設定されていません。東京や大阪の大学病院で研修したい場合でも、枠の取り合いになりません。
太宰府アカデミーの視点
この記事を書きながら、いちばん引っかかったのは「産科は出産、婦人科は女性の病気」という説明が、あまりにも当たり前に流通していることでした。間違ってはいません。ただ、その説明だけを覚えて病院を選ぶと、看板から読み取れないことまで読み取ってしまいます。
今回の条文と統計から言えるのは、次の3つです。1つ、看板は診療内容の宣言であって、資格の証明ではありません。2つ、資格は産婦人科の1つで、しかも4領域すべてを求められます。3つ、実際に何を診ているかは医師ごとに違い、その分布が「主たる診療科」の届出に出ています。看板・資格・実態は別の層の話で、どれか1つから他の2つを推測することはできません。
そのうえで、大学選びの話をしておきます。産婦人科医になるかどうかを決めるのは、大学の医学部に入ってから6年、さらに初期臨床研修2年を終えたあとです。18歳の時点で、どの大学を選ぶかによって産婦人科医への道が閉じることはありません。全国81ある医学部医学科のどの大学を出ても、そのあとに受けられる専門研修は同じ19の基本領域から選びます。大学選びで悩んでいる人には、ここははっきり伝えておきたいところです。
そのうえで、この科にはシーリングがありません。都市部の大学病院で研修したいと考えている人にとって、枠の取り合いにならないというのは実際にはかなり大きい話です。大学病院に残るか市中病院に出るかを、あとから選びやすい科でもあります。
僕は医師ではないので、現場のしんどさそのものを語る資格はありません。ただ、生徒が「なんとなくきつそう」というだけで選択肢を1つ消してしまうのは、もったいないと思っています。数字はここに置いておくので、あとは実際に働いている先生の話を聞いてみてください。大学のオープンキャンパスや病院見学は、そのためにあります。
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まとめ
産科・婦人科・産婦人科の違いを、法律の条文と国の統計だけで確かめました。押さえるのは次の5点です。
- 法律上、本体は「産婦人科」。医療法施行令 第3条の2 第2項が「産婦人科は産科又は婦人科に代えることができる」と定めています。単独で名乗れる14の診療科名のうち、言い換えが認められているのは産婦人科と放射線科の2つだけです
- 資格は「産婦人科専門医」の1つだけ。基本領域は19あり、そのうちの1つが産婦人科です。産婦人科専門医は周産期・婦人科腫瘍・生殖内分泌・女性ヘルスケアの4領域すべてを求められ、症例レポートも4分野から出します
- 主たる診療科の届出は、産婦人科11,188人・婦人科2,218人・産科502人の合計13,908人。産婦人科が80.4%を占めます。産科は502人中383人=76.3%が病院勤務で平均46.3歳、婦人科は約6割が診療所で平均56.1歳と、働く場所も年齢層も逆です
- 看板の数は15年で逆に動きました。一般病院で「産婦人科」を掲げる施設は1,319→1,061と258減り、「婦人科」は743→885と142増えています。「産婦人科」または「産科」を掲げる一般病院は、2009年から2023年まで毎年前年を下回っています
- 受験生向けの数字として、年1,860時間超の医師は産婦人科7.0%で集計20科のなかで最多(調査全体2.4%・皮膚科とは約28倍の差)。それでも専攻医は2026年度478人で2018年度の441人から8.4%増え、シーリング対象外の6科の1つです
読者の皆さんが明日からできることは1つです。病院を選ぶときに、看板の3文字から中身を推測しないこと。お産をしたいなら分娩を扱っているか、婦人科の手術を受けたいなら手術の実績があるか——それは看板ではなく、その施設のサイトか電話で直接確かめられます。
そして、医学部を目指している人へ。産婦人科医になるかどうかを決めるのは、大学の医学部に入って6年、初期臨床研修2年を終えたあとです。全国81ある医学部医学科のどの大学を選んでも、その先に受けられる専門研修は同じです。18歳の時点の大学選びで、この道が閉じることはありません。
では、本日の記事は以上です。
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