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救急医になるには|救急救命士との違いと専攻医527人

2026年09月01日 更新

こんにちは、福岡の医学部予備校で総務・広報を担当している後藤です。

面談で「救急をやりたい」と言う生徒は毎年います。ただ、話を聞いていくと、「救急医」と「救命救急医」と「救急救命士」が混ざっていることがとても多いです。

この記事は、次の3つに答えるつもりで書きました。

− 「救急医」「救命救急医」「救急救命士」は何が違うのか?

− 救急医になるには、何年かかるのか?

− 救急科は本当に「いちばん激務」なのか?

いちばん大事なところを先に書きます。「救急救命士」は医師ではありません。医師とはまったく別の国家資格で、根拠になる法律も違います。ここは法律の条文で確かめられるので、この記事でも条文をそのまま引きます。

そのうえで、救急科がいま医師の世界でどういう位置にあるのかを、専攻医の人数・労働時間・地域偏在の3つの公表データで見ていきます。

 

結論|「救急医」「救命救急医」「救急救命士」は3つとも別です

先に結論を4つ書きます。

①「救急救命士」は医師ではありません。救急救命士法という別の法律にもとづく国家資格で、医師の指示の下で救急救命処置を行うと条文に書かれています。救急車に乗って処置をするのがこの資格です。

②「救急医」と「救命救急医」は、どちらも医師です。資格の名前としては「救急科専門医」が正式で、「救命救急医」は救命救急センターなどで働く救急医を指す言い方です。別々の資格が2つあるわけではありません。

③救急医になるには最短11年です。医学部6年+初期臨床研修2年+救急科の専門研修3年以上。18歳で入学すると、29歳ごろに救急科専門医になります。

④「救急はいちばん激務」は、数字では支持されません。時間外・休日労働が年1,860時間を超える医師の割合は、救急科3.1%。産婦人科7.0%・脳神経外科5.8%・外科5.1%より低い数字でした。ただし全診療科の合計2.4%は上回っています。

 

救急救命士は医師ではありません|救急救命士法の条文

まず、いちばん誤解の多いところから。

救急救命士は、救急救命士法(1991年4月23日公布)にもとづく国家資格です。第2条には、こう書かれています。

「この法律で「救急救命士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、救急救命士の名称を用いて、医師の指示の下に、救急救命処置を行うことを業とする者をいう。」

ポイントは「医師の指示の下に」の部分です。さらに第44条では、次の2つが定められています。

− 医師の具体的な指示を受けなければ、厚生労働省令で定める救急救命処置を行ってはならない。

− 救急救命士は、救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのものであって厚生労働省令で定めるもの以外の場所においてその業務を行ってはならない。

つまり、救急救命士は、医師の指示なしにはできない処置があり、原則として救急車などの中でしか業務を行えません。医師のように、自分の判断で診断し治療方針を決める資格ではありません。

医学部を出て医師免許を取るのは「救急医」のほうです。救急救命士になる道は医学部ではなく、救急救命士養成課程のある大学・専門学校、または消防官として採用されたあとの養成所です。進路がそもそも違います。

 

救急医になるには|医学部6年+研修2年+専門研修3年以上

では、救急医になる道のりです。

段階 年数 中身
医学部 6年 医学科は6年。卒業して医師国家試験に合格すると医師免許
初期臨床研修 2年 医師法で義務づけられた2年間。複数の科を回る
救急科の専門研修 3年 日本専門医機構の基本領域19のうちの1つ。最短3年
合計 最短11年 18歳で入学すると、29歳ごろに救急科専門医

出典:医師法(初期臨床研修の義務)、日本救急医学会が公表している救急科専門医の取得要件、日本専門医機構の基本領域の区分(2026年9月1日確認)

日本救急医学会は、救急科専門医の要件を「2年間の初期臨床研修を修了したあと、3年以上の専門研修を修め、資格試験に合格した医師」としています。救急科は日本専門医機構の19の基本領域のうちの1つです。

研修する場所は、大学病院や救命救急センターです

救急科の専門研修プログラムは、大学病院や救命救急センターを基幹施設として組まれています。医学部のある大学は全国81校(国公立50校・私立31校)ありますが、どの大学の医学部に進んでも救急科は選べます。卒業した大学と、専門研修を受ける大学が同じである必要もありません。

初期臨床研修の2年間で複数の科を回るので、入学の時点で救急科に決めておく必要はありません。実際、研修先の大学病院で救急を回ってから進路を決める人は珍しくありません。受験の段階では、大学ごとの附属病院に救命救急センターがあるかどうかを見ておく程度で十分です。

合計すると最短11年。当サイトの医学部は何年かかるのかでも書きましたが、これは医師のキャリアとしては短いほうです。たとえば皮膚科の専門研修は5年で、基本領域では最長になります。

 

救急科の専攻医は8年で1.97倍|19領域の合計は1.19倍

ここからは、救急科がいまどういう位置にあるかを数字で見ます。

専門研修を始めた医師のことを専攻医といいます。どの科に何人入ったかは毎年公表されているので、人気の動きがそのまま分かります。

専攻医採用数の2018年度から2026年度への伸び。救急科は1.97倍で19領域の合計1.19倍を上回る
出典:日本専門医機構「専攻医採用数」(2018〜2026年度)より太宰府アカデミー集計。臨床検査は6人→25人で4.17倍だが、母数が小さいため順位の比較には使わない
診療科 2018年度 2026年度 8年間の伸び
救急科 267人 527人 1.97倍
リハビリテーション科 75人 129人 1.72倍
総合診療 184人 282人 1.53倍
整形外科 552人 773人 1.40倍
精神科 441人 547人 1.24倍
内科 2670人 3129人 1.17倍
麻酔科 495人 495人 1.00倍
皮膚科 271人 259人 0.96倍
小児科 573人 543人 0.95倍
病理 114人 91人 0.80倍
19領域の合計 8,410人 9,998人 1.19倍

救急科は2018年度の267人から2026年度の527人へ、1.97倍になりました。同じ8年で19領域の合計は1.19倍ですから、全体の伸びを大きく上回っています。

逆に減っているのが病理(0.80倍)・小児科(0.95倍)・皮膚科(0.96倍)です。麻酔科は495人→495人でちょうど横ばいでした。

なお臨床検査は6人→25人で4.17倍ですが、母数が小さすぎるので順位の比較には使いません。

救急科を選んだ専攻医の人数の推移。2018年度267人から2026年度527人へ
出典:日本専門医機構「専攻医採用数」(2018〜2026年度)より太宰府アカデミー集計
年度 救急科の専攻医
2018年度 267人
2020年度 279人
2022年度 370人
2024年度 472人
2025年度 449人
2026年度 527人

年ごとに見ると、2025年度に一度449人へ減り、2026年度に527人で過去最多になっています。1年の増減で流れを判断しないでください。9年の形として、増えている領域だと読むのが正確です。

もう1つ、進路を考えるときに知っておくとよいことがあります。専攻医には都市部への集中を抑えるためのシーリング(採用上限)がありますが、外科・産婦人科・救急科・病理・臨床検査・総合診療の6科は対象外です。希望する地域で研修しやすい領域だといえます。

 

「救急はいちばん激務」は数字では支持されません

救急を志望する生徒が、家族に反対される理由でいちばん多いのがこれです。「体力がもたない」「いちばんきつい科だ」。

厚生労働省が、時間外・休日労働が年1,860時間を超える医師の割合を診療科別に公表しています。1,860時間は、医師の時間外労働の上限規制でB水準・C水準の上限にあたる水準です。

時間外・休日労働が年1860時間を超える医師の割合。救急科3.1%は産婦人科7.0%より低い
出典:厚生労働省「医師の勤務実態調査」(令和4年)より太宰府アカデミー集計。年1,860時間は医師の時間外労働の上限規制のB水準・C水準にあたる水準です
診療科 所属医師数 年1,860時間超 割合
産婦人科 2,128人 150人 7.0%
脳神経外科 1,321人 76人 5.8%
外科 4,883人 248人 5.1%
救急科 1,400人 43人 3.1%
小児科 2,508人 70人 2.8%
整形外科 2,257人 48人 2.1%
放射線科 2,075人 6人 0.3%
皮膚科 1,602人 4人 0.2%
全診療科の合計 43,718人 1,034人 2.4%

救急科は1,400人中43人で3.1%。産婦人科7.0%の半分以下で、脳神経外科5.8%・外科5.1%よりも低い数字でした。

ただし、全診療科の合計2.4%は上回っています。「平均より上だが、いちばん上ではない」が正確なところです。「救急=いちばん激務」という言い方は、この数字では支持されません。

もう1点だけ補足します。この調査は令和4年のもので、医師の時間外労働の上限規制が始まったのは2024年4月です。規制の後でどう変わったかは、まだ同じ形の調査が公表されていません。ここは今後の数字を待つところです。

 

医師が足りない地域では、救急科がとくに薄くなります

もう1つ、志望理由を考えるときに使える数字があります。

厚生労働省は、診療科ごとに医師の偏在指標を出しています。1.0が全国平均です。医師少数区域とされた108区域について、救急科の指標がどう分布しているかを見ます。

医師少数区域108のうち診療科別医師偏在指標が全国平均の0.6未満だった区域数。救急科は91区域
出典:厚生労働省「診療科別医師偏在指標」(令和4年)より太宰府アカデミー集計。偏在指標は1.0が全国平均です
区分 救急科の区域数 108区域に占める割合
0.2未満 51区域 47.2%
0.2〜0.4 16区域 14.8%
0.4〜0.6 24区域 22.2%
0.6〜0.8 4区域 3.7%
0.8〜1.0 6区域 5.6%
1.0以上 7区域 6.5%

108区域のうち51区域が0.2未満。0.6未満まで広げると91区域=84.3%です。全診療科でみると0.6未満は40区域ですから、救急科はその2.3倍薄いことになります。

医師が足りないとされる地域では、救急を担う医師がさらに足りない。これは「なぜ救急科なのか」を書くときに、実感ではなく数字で支えられる部分です。

災害医療とDMAT|医師5,443人は、日本の医師の約64人に1人

救急と結びつけて語られることが多いのがDMAT(災害派遣医療チーム)です。

DMAT隊員養成研修を修了した人は、2025年3月までの累計で18,909人。内訳は医師5,443人・看護師7,934人・業務調整員5,532人です。医師5,443人は、日本の医師347,772人の1.57%=約64人に1人にあたります。

ただし注意点があります。この18,909人は累計の養成人数であって、いま登録されている隊員の数ではありません。退職・異動で外れた人も含まれているので、「いまDMATが18,909人いる」とは読めません。

 

太宰府アカデミーの視点|救急を志望理由に書くときの3つ

面接や志望理由書で「救急をやりたい」と書く生徒に、いつも伝えていることです。

①資格の名前を正確に使う。「救急救命士になりたいので医学部を受けます」と書いてしまう子が、実際にいます。資格が違うことを知らないまま医学部を受けるのは、志望理由として弱く見えます。まず「救急科専門医」という正式な名前を使ってください。

②「大変そうだけどやりたい」で止めない。熱意は伝わりますが、面接官は毎年何十人もそれを聞いています。医師少数区域108のうち91区域で救急科が全国平均の0.6未満、というような数字を1つ持っているほうが、話が具体的になります。

③データの限界も一緒に言えるようにする。労働時間の調査は令和4年のもので、上限規制が始まった2024年4月より前です。「この数字は規制前のものなので、今後の公表を見たい」まで言えると、数字を覚えてきただけの受け答えとは違って聞こえます。

うちの面接練習でも、数字を暗記させることはしません。その数字がいつのもので、何を測っていて、どこまで言えるのか。そこまで自分の言葉にできて、はじめて使える材料になると考えています。

 

よくある質問

Q. 救急医と救命救急医は、資格が違うのですか。
A. 違いません。どちらも医師で、正式な資格の名前は「救急科専門医」です。「救命救急医」は救命救急センターなどで働く救急医を指す呼び方で、別の資格が用意されているわけではありません。

Q. 救急救命士から医師になれますか。
A. 救急救命士の資格があっても、医師になるには医学部医学科に入り直す必要があります。救急救命士の資格が医学部の受験や医師国家試験の要件を代わりに満たすことはありません。ただし現場を知っている強みは、志望理由としては十分に語れます。

Q. 救急科は人気がないと聞きました。
A. 数字はそうなっていません。2026年度の専攻医採用数は527人で、19領域のなかで6番目に多い人数です。8年で1.97倍に増えています。

Q. 救急に強い大学はありますか。
A. 大学ごとの救急科の実績を、横に並べて比べられる公表データはありません。大学の附属病院が救命救急センターに指定されているかどうかは公表されているので、そこは志望校を選ぶときの手がかりになります。ただし専門研修はどの大学の医学部を出ても受けられるので、大学選びの決め手にするほどの差にはなりにくいと考えています。

Q. 救急科の年収はどれくらいですか。
A. 診療科別の年収は、公的統計としては公表されていません。厚生労働省の賃金構造基本統計調査で分かるのは医師全体の数字で、令和7年は推定年収1,512.3万円です(平均年齢45.7歳)。診療科別の数字を見るときは、何を根拠にした数字かを必ず確かめてください。

 

まとめ

「救急救命士」は医師ではありません。救急救命士法にもとづく別の国家資格で、条文に「医師の指示の下に」「救急用自動車等以外の場所で業務を行ってはならない」と定められています。医学部を出て目指すのは「救急科専門医」のほうです。

救急医になるには最短11年。医学部6年+初期臨床研修2年+救急科の専門研修3年以上です。皮膚科の5年に比べると、基本領域のなかでは短いほうにあたります。

救急科の専攻医は2018年度267人から2026年度527人へ1.97倍。19領域の合計1.19倍を大きく上回り、2026年度の人数は19領域中6位です。外科・産婦人科・救急科など6科にはシーリングがありません。

労働時間は、平均より上だがいちばん上ではありません。年1,860時間超の割合は救急科3.1%で、産婦人科7.0%の半分以下、全診療科の合計2.4%は上回ります。ただしこの調査は上限規制が始まる前の令和4年のものです。

そして、医師が足りない地域では救急科がとくに薄い。医師少数区域108のうち91区域(84.3%)で全国平均の0.6未満、うち51区域は0.2未満でした。志望理由を数字で支えるなら、ここが使えます。

受験の段階でやることは、そう多くありません。医学部のある大学は全国81校で、どの大学に入っても救急科は選べます。大学選びで救急科を決め打ちする必要はなく、まずは医学部医学科に入ることに集中してかまいません。

 

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後藤 登(Goto Noboru)
仕事:総務・広報・完全個別指導コース担当
自己PR:高校・大学ボクシング部。釣りや登山が好き。新卒で当校に勤めて13年目。医学部受験の情報を調べて、ブログやInstagram、Twitterを更新しています。4年前から完全個別指導コースのコース担当。

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