こんにちは、太宰府アカデミーで広報/完全個別指導コースを担当している後藤です。
進路の面談で、生徒からも保護者の方からも必ず出る質問があります。「◯◯科って、儲かるんですか」。答えるたびに困っていたのが、検索して出てくる「診療科別年収ランキング」のほとんどが、転職サイトの求人票の額を並べたもので、出典の書き方も数字の定義もバラバラなことです。
なので、公的な調査だけで作り直しました。今日の記事の数字は、厚生労働省の統計と公的機関の調査から引いたものだけです。どの数字がいつの・誰の調査かも、ぜんぶ書きます。
その前に。皆さん、こんなふうに思っていませんか?
− 外科系がいちばん稼げるんでしょ?
− 眼科や皮膚科って、楽なのに儲かるって聞くけど本当?
− 結局、どの科を選べば収入で損しないの?
一つずつ、数字で答えていきます!
この記事の目次
結論:「診療科別の年収ランキング」は1つではない。勤務医と開業医で順位が逆転する
最初に、この記事でいちばん大事な結論を言います。「どの科が稼げるか」への答えは1つではありません。勤務医のランキングと開業医のランキングで、順位がほぼ逆転するからです。
勤務医のトップは脳神経外科(1,480.3万円)と産科・婦人科(1,466.3万円)。ところが開業医(個人・無床診療所)のトップは耳鼻咽喉科(3,420.8万円)と眼科(3,372.0万円)——勤務医では最下位グループだった科です。そして産科・婦人科は開業側では下から2番目になります。
だからこの記事は、ランキングを3枚に分けて出します。その前に「医師の平均年収」の全体像から。

「医師の平均年収」としてよく見かける数字は、実は定義の違う3つの統計が混ざっています。勤務医の平均は1,512.3万円(令和7年賃金構造基本統計調査から当塾計算。雇われている医師だけの数字です)。開業医(個人・無床)の平均は2,591.9万円(令和6年度・医療経済実態調査の損益差額)。医療法人の無床診療所の院長給与は約2,871.7万円。そして研修医1年目は約435万円から始まります。
| 誰の数字か | 金額 | 出典・年 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 勤務医の平均 | 1,512.3万円 | 令和7年 賃金構造基本統計調査 | 雇われている医師14.5万人のみ。開業医は入らない |
| 開業医(個人・無床)の平均 | 2,591.9万円 | 第25回医療経済実態調査(令和6年度) | 損益差額=税引前。ここから税金・借入返済・生活費を出す |
| 無床診療所の院長(医療法人) | 約2,871.7万円 | 同上 | 法人から受け取る給与。雇われ院長を含む |
| 研修医1年目 | 約435万円 | 初期研修病院の募集情報の民間集計(2025年時点) | 病院差が大きい(都心の大学病院ほど低い傾向) |
表の右端に書いたとおり、それぞれ「誰の・何の数字か」が違います。ここを混ぜると年収の話はぜんぶ噛み合わなくなるので、この記事では毎回出典を添えます。
勤務医の診療科別ランキング:1,400万円超は脳神経外科と産科・婦人科だけ
まず勤務医です。公的機関による診療科別の年収調査は、労働政策研究・研修機構(JILPT)が全国の病院勤務医3,467人に行ったものが最新です(2011年12月調査・2012年公表)。15年近く前の調査ですが、国の機関系で診療科別に年収を聞いた調査はこれが最後——だから世の中のランキング記事は転職サイトの数字を使うわけです。古さに注意しつつ、定義のはっきりした数字として見てください。

1,400万円を超えるのは脳神経外科と産科・婦人科の2科だけ。3位以下は外科1,374.2万円、麻酔科1,335.2万円、整形外科1,289.9万円と続き、最下位グループは眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科(4科合算)の1,078.7万円でした。
| 順位 | 診療科 | 平均年収 | 回答者数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 脳神経外科 | 1,480.3万円 | 103人 |
| 2 | 産科・婦人科 | 1,466.3万円 | 130人 |
| 3 | 外科 | 1,374.2万円 | 340人 |
| 4 | 麻酔科 | 1,335.2万円 | 128人 |
| 5 | 整形外科 | 1,289.9万円 | 236人 |
| 6 | 呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1,267.2万円 | 304人 |
| 7 | 内科 | 1,247.4万円 | 705人 |
| 8 | 精神科 | 1,230.2万円 | 218人 |
| 9 | 小児科 | 1,220.5万円 | 169人 |
| 10 | 救急科 | 1,215.3万円 | 32人 |
| 11 | 放射線科 | 1,103.3万円 | 95人 |
| 12 | 眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1,078.7万円 | 313人 |
| — | 全体(無回答除く) | 1,261.1万円 | 2,876人 |
この表を読むときの注意が3つあります。①1位と最下位の差は約1.4倍しかない。あとで書くアメリカ(約3.3倍)に比べると、日本の勤務医の科ごとの差はかなり小さい。②この年収は「主たる勤務先」のもので、当直バイトや外勤の収入は入っていません。外勤の多い科は実際より低く見えます。③救急科はn=32人と少ないので幅を持って見てください。
そしてこの調査でもう1つ面白いのは、科の差より「勤め先」の差のほうが大きいことです。同じ調査で経営形態別の平均を見ると、医療法人(民間病院)1,443.8万円に対して、国立(国立大学の附属病院を含む)882.4万円、学校法人(私立大学の病院)739.5万円。どの科を選ぶかより、どこで働くかのほうが、年収には効いていました。大学病院の医師が外勤で収入を補う構造も、ここから来ています。
開業医の診療科別ランキング:耳鼻咽喉科・眼科・小児科がトップ3
次に開業医です。こちらは新しい公的データがあります。厚生労働省の第25回医療経済実態調査(2025年11月公表)から、個人立・入院設備なしの一般診療所——いわゆる「町のクリニック」の、令和6年度の損益差額(収益−費用)を診療科別に並べました。

トップは耳鼻咽喉科3,420.8万円、次いで眼科3,372.0万円、小児科3,281.2万円。勤務医ランキングで最下位グループだった耳鼻咽喉科と眼科が、開業では1位・2位です。逆に勤務医2位だった産科・婦人科は1,933.6万円で下から2番目でした。
| 順位 | 診療科 | 損益差額(令和6年度) | (参考)令和5年度 | 集計施設数 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 耳鼻咽喉科 | 3,420.8万円 | 3,670.2万円 | 48 |
| 2 | 眼科 | 3,372.0万円 | 3,570.3万円 | 75 |
| 3 | 小児科 | 3,281.2万円 | 4,809.1万円 | 51 |
| 4 | 整形外科 | 2,762.9万円 | 2,723.2万円 | 70 |
| 5 | 外科 | 2,515.3万円 | 2,710.7万円 | 35 |
| 6 | 内科 | 2,454.2万円 | 2,996.2万円 | 408 |
| 7 | 精神科 | 2,148.4万円 | 2,295.2万円 | 43 |
| 8 | 産科・婦人科 | 1,933.6万円 | 2,460.1万円 | 21 |
| 9 | 皮膚科 | 1,811.0万円 | 1,783.4万円 | 50 |
| — | 全体(「その他」29施設を含む) | 2,591.9万円 | 3,009.1万円 | 830 |
この表にも大事な注意が3つ。①損益差額は「年収」そのものではなく税引前の取り分で、ここから税金・開業時の借入返済・自分の生活費を出します。②この集計は無床(入院なし)なので、分娩を扱う産科医院は入っていません。産科・婦人科の1,933.6万円は外来中心のクリニックの数字で、しかも集計21施設と少なめです。③前年度からの変動が大きい科があります。小児科は令和5年度4,809.1万円→令和6年度3,281.2万円と大きく動きました。単年の数字を絶対視しないでください。
なお「開業すれば2,591.9万円もらえる」わけでもありません。同じ調査の分析では、個人立診療所の損益差額の最頻値(いちばん多い層)は約750万円で、勤務医の給与水準以下の施設が4割弱、赤字が5.6%あります。平均と最頻値がこれだけ離れていること自体が、開業のリスクの大きさです。
勤務医と開業医で、順位はここまで入れ替わる

2つのランキングを並べ替えると、この記事の結論がはっきり見えます。耳鼻咽喉科・眼科は「勤務医では最下位グループ、開業で1位・2位」。小児科は9位→3位。産科・婦人科は2位→8位。同じ科でも、働き方でここまで変わります。
| 診療科 | 勤務医での位置(2011年調査) | 開業(個人・無床)での位置(令和6年度) |
|---|---|---|
| 耳鼻咽喉科 | 最下位グループ(4科合算で1,078.7万円) | 1位(3,420.8万円) |
| 眼科 | 最下位グループ(同上) | 2位(3,372.0万円) |
| 小児科 | 9位(1,220.5万円) | 3位(3,281.2万円) |
| 整形外科 | 5位(1,289.9万円) | 4位(2,762.9万円) |
| 外科 | 3位(1,374.2万円) | 5位(2,515.3万円) |
| 内科 | 7位(1,247.4万円) | 6位(2,454.2万円) |
| 精神科 | 8位(1,230.2万円) | 7位(2,148.4万円) |
| 産科・婦人科 | 2位(1,466.3万円) | 8位(1,933.6万円) |
| 皮膚科 | 最下位グループ(4科合算で1,078.7万円) | 9位(1,811.0万円) |
理由は構造で説明できます。勤務医の年収は当直・救急・手術の負荷への対価という色が濃く、脳神経外科や産科・婦人科のような「呼ばれる科」が上位に来ます。開業医の損益は外来の患者数と設備・人件費のバランスで決まるので、外来の回転が速く、大がかりな入院設備の要らない耳鼻咽喉科・眼科が上位に来る——それぞれ別のゲームなんです。
年収は「労働時間」とセットで読む
勤務医ランキング上位の科が何で稼いでいるかは、労働時間のデータを横に置くと分かります。厚生労働省が全病院を対象に行った調査(令和4年)で、時間外・休日労働が年1,860時間——月平均155時間、過労死ラインの約2倍——を超える医師の割合を診療科別に見たものです。
| 診療科 | 所属医師数 | 年1,860時間超 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 産婦人科 | 2,128人 | 150人 | 7.0% |
| 脳神経外科 | 1,321人 | 76人 | 5.8% |
| 外科 | 4,883人 | 248人 | 5.1% |
| 救急科 | 1,400人 | 43人 | 3.1% |
| 小児科 | 2,508人 | 70人 | 2.8% |
| 整形外科 | 2,257人 | 48人 | 2.1% |
| 内科 | 12,340人 | 220人 | 1.8% |
| 麻酔科 | 2,408人 | 41人 | 1.7% |
| 泌尿器科 | 1,306人 | 21人 | 1.6% |
| 耳鼻咽喉科 | 1,476人 | 18人 | 1.2% |
| 精神科 | 1,534人 | 12人 | 0.8% |
| 眼科 | 1,791人 | 11人 | 0.6% |
| 放射線科 | 2,075人 | 6人 | 0.3% |
| 皮膚科 | 1,602人 | 4人 | 0.2% |
年1,860時間超の割合トップは産婦人科7.0%、次いで脳神経外科5.8%、外科5.1%。勤務医の年収ランキング1位・2位の科は、長時間労働の1位・2位でもありました。逆に皮膚科0.2%・放射線科0.3%・眼科0.6%。勤務医の年収が低めに見えた科は、時間外労働も少ない科です。
つまり勤務医の世界では、年収の差はかなりの部分が「単価の差」ではなく「量の差」です。JILPTの同じ調査でも、給与への満足度がいちばん高いのは年収9位の小児科(51.2%)で、不満がいちばん多いのは救急科(55.5%)でした。金額の順位と納得感の順位は、別物です。
太宰府アカデミーの視点:受験生がこの数字とどう付き合うか
最後に、医学部を目指す皆さんとご家族に、この記事の数字の使い方を3つだけ。
1つ目。診療科を決めるのは約10年後だと知っておく。日本の仕組みでは、医学部6年と初期研修2年のあいだは科を決めなくてよく、専攻医として科を選ぶのは医師3年目です。これはどの大学の医学部からでも同じで、「産婦人科に強い大学に入らないと産婦人科医になれない」といったこともありません。高校生のいま「皮膚科医になりたい」と決め込む必要はないし、大学の医局に入るかどうかも、医師になってから考えれば十分です。10年あれば制度も数字も変わります。実際、令和7年の統計では医師が年収1,000万円を超えるのは30代前半でした(令和6年は30代後半。年によって答えが動くくらいの話です)。
2つ目。年収の数字は「定義」ごと覚える。「医師の平均年収1,512万円」は雇われている医師だけの数字。「開業医は2,600万円」は税引前で、借入返済も生活費もここから出ます。定義を知らずに金額だけ覚えると、ネットの「医師は3,000万円稼げる」も「医者は思ったほど稼げない」も、どちらにも振り回されます。この記事の表は定義つきで作ったので、そのまま使ってください。
3つ目。科選びの軸は年収だけではない、が、構造は知っておいて損はない。「勤務医の差は小さく、開業で差が開く」「上位の科は労働時間も長い」——この2つの構造だけ頭に入れておけば、断片的なランキング記事に驚かなくなります。まずはどこかの大学の医学部に入ること。科の悩みは、医師免許を取ってからで間に合います。
よくある質問
Q1. 眼科や皮膚科は「楽なのに儲かる」って本当ですか?
数字で答えると、勤務医としての平均年収は最下位グループ(4科合算で1,078.7万円・2011年調査)で、「勤務医のうちは特別儲かる科」ではありません。いっぽう年1,860時間超の長時間労働の割合は眼科0.6%・皮膚科0.2%と少なく、開業すると眼科は2位(3,372.0万円)に来ます。「楽か」は評価しませんが、労働時間が相対的に短く、開業で強い科——というのがデータの姿です。
Q2. 美容外科が入っていないのはなぜですか?
公的統計に「美容外科」という区分がないからです。美容医療は自由診療が中心で、厚労省の医療経済実態調査にも賃金構造基本統計調査にも科として出てきません。求人サイトには提示額1,900万円前後の数字が並びますが、あれは求人票の提示額であって、働いている医師の平均ではありません。定義の確かめようがない数字は、この記事では扱いませんでした。
Q3. 女性医師だと年収は下がりますか?
令和7年の賃金構造基本統計調査では、勤務医の平均は男性1,594.2万円・女性1,274.5万円です。ただし調査対象の女性医師は男性より平均5.7歳若い(女性41.5歳・男性47.2歳)ので、この差をそのまま「同じ働き方での格差」と読むことはできません。20代ではほぼ差がなく、30代後半以降で開いていくのが実態です。
まとめ:ランキングは「どの働き方か」とセットで読む
- 勤務医の平均年収は1,512.3万円(令和7年・雇われている医師のみ)。研修医1年目は約435万円から
- 勤務医の診療科別トップは脳神経外科1,480.3万円・産科・婦人科1,466.3万円(2011年調査)。1位と最下位の差は約1.4倍と小さい
- 開業医(個人・無床)のトップは耳鼻咽喉科3,420.8万円・眼科3,372.0万円・小児科3,281.2万円(令和6年度)。勤務医とは順位がほぼ逆転する
- 勤務医の年収上位(産婦人科・脳神経外科)は年1,860時間超の長時間労働でも上位(7.0%・5.8%)。年収は労働時間とセットで読む
- 開業医の平均2,591.9万円は税引前。最頻値は約750万円で、4割弱は勤務医の給与水準以下。平均だけ見て開業を判断しない
- 勤務医は科の差(約1.4倍)より勤め先の差が大きい。医療法人1,443.8万円に対し、大学病院を含む学校法人は739.5万円。出身大学がどこでも、どの診療科にも進める
この記事を書いたのは、「儲かる科ランキング」が出典のあいまいな数字で語られて、それが受験生の大学選びや進路の話にまで入り込んでくるのが、ずっと気になっていたからです。数字を使うなら、定義と年次ごと。公的調査だけでここまで書けることを、この記事で示したつもりです。
アメリカの医師の年収(診療科別ランキング)も同じ作り方でまとめました。日本との差は平均で約4.0倍、科による差は3.3倍。日本の「科の差が小さい」特徴は、アメリカと並べるとはっきり見えます。
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後藤 登(Goto Noboru)
仕事:総務・広報・完全個別指導コース担当
自己PR:高校・大学ボクシング部。釣りや登山が好き。新卒で当校に勤めて13年目。医学部受験の情報を調べて、ブログやInstagram、Twitterを更新しています。4年前から完全個別指導コースのコース担当。
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